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桐生は着席したところで、莉咲の存在を思い出し、振り返る。
「あっ。天野さん……!」
その言葉に、彰人も反応する。
莉咲は少し離れた位置で、二人のやりとりを見守っていたのだ。
「りいちゃん……?」
そこでようやく彰人も莉咲の存在に気づき、驚いたものの、桐生と莉咲を交互に見て、二人の関係性を推察した。
(二人は、もしかして……)
彰人は桐生の横顔を見つめた。
莉咲はどうしたらいいかわからず、身動きがとれずにいた。
先ほどの彰人の仕事仲間のように颯爽と去り、二人きりにした方がいいのではないか。積もる話もあるだろうし、と迷っていた。
そして何よりとてつもなく居心地が悪い。
二人が兄弟だという話は莉咲にも聞こえていた。
彰人は幼い頃、母親と離別している。のちに母親が再婚して異父兄弟がいてもおかしくはない。
(でもまさかこんな身近なところで……!)
莉咲はそっと桐生を盗み見る。
桐生と彰人、似ているとは思っていたが、他人の空似だとあまり深く気にしていなかった。まさか本当の兄弟だなんて……理解が追いつかない。
彰人の一言で、莉咲はさらに困惑する。
「りいちゃんも座って」
と、彰人が空いているもう一つの席を勧めてきたのだ。
驚いたのは桐生も同じだった。桐生は彰人の顔を見た。
彰人も桐生の顔を見て、
「彼女を同席させて欲しい。僕の、大切な人だから……」
そう言われてしまうと、断ることはできない。
桐生は頷き「どうぞ」と莉咲に席を勧めた。
莉咲は動揺しながら、ぎこちなく着席した。
今すぐにでも叫び出したい気持ちを何とか抑え、胸元に手を当てる。
(た、大切な人って……!)
彰人の言葉に、莉咲の胸が高鳴る。
莉咲が着席したのを合図に、二人は話し始めた。
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