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02 気になるあの人
翌日、隣の席の東に婚活を始めたことを話すと、全否定された。
「元カレと同棲続けながら婚活するってヤバくないすか? 頭、大丈夫っすか?」
東は吐きそうな顔をしながら、口元をおさえる。
「どこにそんな女と付き合いたい男がいるんだよ。あり得ない……。しかも結婚したいんでしょ? 無理無理……」
「べっ、別に言わなきゃわかんないじゃん」
「バレたら即フラれるじゃん。逆の立場で考えてみ? 付き合った彼氏が元カノと同棲してるって知っても受け入れられる?」
「そ、それは……」
よくよく考えたら東の言っていることは正論すぎて、莉咲は言い返すことができなくなった。
たしかに彼の言う通り、受け入れられるかどうか、自信がない。
(私だったら……嫌かも…………)
頭を抱えていると、佐々木から声をかけられる。
「天野さん、資料の準備できた?」
その一言で、昨日頼まれたサンプル資料のことを思い出し、慌てて立ち上がる。
「い、今すぐ持ってきます!!」
資料室へ駆け込み、メモを見る。
(えーと、この品番はアレかな……)
なんとなく思い当たる会社のカタログを広げるも、品番が一致しない。
(今から佐々木さんにメーカー名を聞くか……?)
声をかけられるまで完全に失念していたことに罪悪感を抱き、聞きに行くのをためらった。
そうこうしているうちに時間は経ち、東の言葉を思い出す。
彼は今日の午後の打合せで使うと言っていた。となると、一刻も早く見つけ出さなければならない。莉咲にだって他にも仕事があるのだ。
こうなったら恥も何もかも捨てて、佐々木にメーカー名を確認しようと思い立ち、数歩動いたところで段ボールに蹴躓いて転んでしまう。
「いったぁ~!」
見ると、膝から出血していた。
莉咲はじわじわと迫りくる痛みと時間に泣きそうになった。
(もう! 誰よ、ここに段ボールを置いたのはっ……!)
すると、資料室のドアが開き、東がひょっこり顔を出した。
「天野さん、プリンター紙詰まり起こしたから直してって佐々木さんが……」
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