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莉咲は瞬時に東を睨みつけ、
「んもうっ! 今はそれどころじゃないって……!」
と、堪えていた涙をこぼしてしまった。
異変を感じた東はすぐに駆け寄り、莉咲の膝を見て驚愕する。
「大丈夫!? めっちゃ血ぃ出てるじゃん……」
「転んだの! もぉ~誰よこんなところに段ボール置いたの……」
「天野さんでしょ。この間、新しいカタログが届いたって言ってたじゃん」
東に言われて、莉咲は思い出した。
この段ボールを置いたのはまぎれもなく自分だった。新しいカタログが届き、古いものと入れ替えなければならない作業を後回しにしていたのだ。
「もぉ~正論ばっか言わないでよぉ……!」
莉咲が泣きじゃくると、東は慌ててフォローする。
「とりあえず今はそれどころじゃないから! 待ってて、救急箱持ってくるから」
と言い、資料室を出て行った。
すぐに救急箱を持って戻ってきた東は手早く傷口を消毒して、絆創膏を貼ると、床に落ちていたメモを拾い、
「資料は俺が探すから。天野さんは戻って、プリンター直してきて」
「えっ。でも……」
「俺は佐々木さんとやってるから、メーカーも把握してるし。プリンターは天野さんと社長しか直せないじゃん。社長は今、外出中だし……」
図面を印刷するための大判プリンターはロール紙を使っているため、紙詰まりを起こすと普通の紙プリンターとは直し方が異なる。
なぜか社内で直せるのは社長と莉咲だけで、他の人はおぼえようとしないので、紙詰まりを起こすと必ず莉咲が呼ばれるのだった。
「ありがとう、東君。紙詰まり直したら、私もすぐに戻ってくるね!」
膝の痛みを堪えて、莉咲はプリンターを直しに向かった。
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