00 明日でもいいですか?

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 事務所のあるビルを出てスマホをチェックすると、3件の通知があった。  一つはSNSの通知。  『A子さんが新しい投稿をしました』の見出しをクリックすると、赤ちゃんを抱いたA子の写真。『赤ちゃんが生まれました!』の文字を見て、 (見りゃわかるわ!)  と内心ツッコミを入れる。  2つ目はメッセージの通知。B美からで、『婚約していた彼とついに入籍しました。新しい苗字は〇〇です。』とあり、莉咲は返信することなくメッセージ画面を閉じた。  3つ目もメッセージ通知。彰人(あきと)からだった。  『お疲れ様。夕飯はりいちゃんが食べたいって言ってた鯖の竜田揚げだよ。揚げたてを食べて欲しいから、マンションに着いたら教えてね。』  莉咲は『わーい。これから帰ります。』と返信をして、歩き出した。  堂島(どうじま)彰人は、かれこれ5年ほど同棲を続けている莉咲の彼氏である。 「結婚かぁ……」  遠藤の結婚を聞いて、正直とても羨ましかったし、嫉妬すらあった。彼女はたしか莉咲よりも2~3歳年下だ。  今年で30歳になった莉咲は、誰よりも“結婚”を意識している。 (私も……。あきちゃんと結婚、できるのかなぁ……?)  秋になり、18時を過ぎた頃にはすでに陽が落ち、星が見え始めた夜空を見上げ、胸に手をあてた。  莉咲が彰人と出会ったのは24歳のときだった。  彼は当時、雑誌編集部に出入りしているライター志望のアシスタントだった。莉咲の勤める建築事務所が設計を担当した物件が住宅雑誌に掲載されることになり、その取材現場で出会ったのだ。  住宅雑誌、とくに個人宅の取材時にいい写真をとるために絶対にしなければいけないことは掃除と片付けである。入居前の物件であれば、こちらで用意した小物やインテリアを飾るだけだが、入居後の物件はとにかく片付けなければならない。ごちゃごちゃした日常の生活感は写真の中に必要ないからだ。  事務員の莉咲が取材現場に同行したのも、片付けを手伝うためだった。  そこで彰人に一目惚れした莉咲は連絡先を交換し、猛アタックの末に交際スタート。あれから6年が経ち、同棲もしているのに変わらない二人の関係にもどかしさを感じている。  莉咲は同棲を開始した5年前から結婚を意識していたのだ。 (結婚の話、私からしてみようかなぁ……?)  いまどき、女性からプロポーズするのも珍しくない。  そう思いつつ、明日にしようと先延ばし続け、気づいたらあっという間に5年が経っていた。 (明日……でもいいかなぁ?)  ふと、先ほど東に指摘されたことを思い出し、イラッとしながらも図星過ぎて落ち込んだ。結局は都合のいい言い訳を探して、現実と向き合うのを避け続けている。  莉咲はそんなどうしようもない自分にふたたびため息をついた。  
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