身売り

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身売り

あの人が来てくれた。 「失礼します。春麗(シュンレイ)様、白鈴(パイリン)でございます。」 「やぁ白鈴、今日は将棋をしようか。」 今日は将棋か、抱いて貰えないのは悲しいが、将棋に勝てばわがままを言っていいだろうか。いいのだろうか。迷ってしまう。 「ん?白鈴?どうした?」 「いえ、なんでもございません。さて将棋をしましょう。そこの雛、将棋を持ってきて。」 「ふふっ」 「?」 「いや、いつ見ても可愛いなと、思っただけさ。」 「!?」 「ふふっ、そんな目を見開かなくてもいいのに。」 分かりやく照れてしまったのが恥ずかしい。 「そんなに揶揄わないでください!!もう…」 「ねぇ、白鈴、こっち向いて。」 「なんでしょう?」 「いいから、ほら、ね?」 「かしこまりました。」 私が春麗様の方に向くと、 チュッ 「え、」 「ふふっ、可愛い顔。好きだよ白鈴。」 「あ、あ、」 赤面してしまった。 接吻(せっぷん)など、今までの客はしてこなかった。 「あ、あの。」 「ん?どうしたんだい?」 「将棋、そろそろしませんか?」 私は照れた顔で将棋を勧めた。 「そうだね。将棋盤と駒も来たし、始めようか。」 「はい。」 カタ、カタ、カタ、 静かな空間と時間に駒を置く音がする。 次の駒を置こうとした瞬間、春麗様の手が触れた。 「あっ…」 「白鈴。」 「春麗様…」 私と春麗様の間に熱い雰囲気が流れた。 「白鈴は私のことが好きだろう?気づいていたよ。」 「えっ…」 「今日はさ、将棋をやめて一緒に寝よう。」 寝る…寝るか、そうか、でも、でも… 「春麗様、私からお願いがあります。」 「ん?どうした?」 「私を、蝶である私を、花である私の蜜を吸っては頂けないでしょうか。」 「…」 「駄目でしょうか、」 「いや、私も君の蜜をいつか欲しいと思っていたんだ。」 「春麗様…」 「さぁ、おいで、(小狼(シャオラン)or小猫(シャンマオ))。」 「えっ、」 私は驚いた。私の本名を知っているのは、蓮(リエン)と、あ… 「宇軒(ユーシュエン)?…」 「そうだよ。やっと思い出してくれたね。」 「宇軒…」 「(小狼or小猫)、君のことがずっと好きだった。」 「そんな、そんな!急に言われても!私だって、私だって、宇軒のことがずっと…好きだった…」 「知ってたよ。綺麗になったね、(小狼or小猫)。君が欲しい。だから、君を買うためには金はいくらでもつむつもりだ。」 私は泣きそうになった。 「宇軒、いや、春麗様。私を買ってくださいませ。」 「あぁ、買うよ。絶対に買うよ。」 「春麗様。」 突然、婆の声が聞こえてきた。 「春麗様、買うなら今ですが?どうなさいますか?」 婆は私を見てニヤリと笑った 「婆…」 「婆、なら明日、金を持ってくるよ。幾らだ?」 「金貨70枚、銀貨100枚でございます。」 「ほう…」 沈黙が3人の間で流れた。 「わかった。それくらいなら、そうだな、今持ってこさせようか。どうだ?婆?」 そう言われ婆はめが飛び出でるほど驚いた顔をした。 「ははっ!私がそんな金を持ってないように見えたかい?」 「いえ、そんなことは…」 「大丈夫、この時のために取っておいたんだ。」 「えっ…」 「(小狼or小猫)がここに入ったのを風の噂で聞いてね。初恋の相手を誰かに取られてはたまったもんじゃないからね。だからそれくらいの金、払えるよ。」 「かしこまりました。それでは準備してまいります。ほら、白鈴、お前はこっちに来い。」 婆がそういった後、強く私の腕を婆が引っ張った。 「明日、お前が妾として嫁ぐための宴を開く。今回は予期せぬ事だったが、仕方あるまい。お前はここの稼ぎ頭だったが、春麗様の元へ行ってもらう。その代わりだ。蓮(リエン)と雪(シュエ)を蝶にする。いいね?」 「今、なんと?」 「蓮と雪を蝶にする。いいね?いや、お前に拒否権は無いか。長話をすると怪しまれる。さぁ、戻りな。」 蓮を守ろうと思ったのに、何故こうなるのだ。 婆の言う通り、私には拒否権はない。 蓮、雪ごめんね。 守れなくてごめんね。 「戻りました。春麗様。」 「おかえり。白鈴。」 「あ、あの、春麗様。」 「(小狼or小猫)、宇軒でいいよ。もう君は僕のものになったも同然なんだから。ほら、隣に座って。」 「かしこまりました。宇軒様。」 「ふふっ、そんな畏まらなくていいよ。昔のように宇軒って呼んでよ。」 「わかった。宇軒。」 「そう、それでいい。ほら、おいで。」 「あっ、」 宇軒は、自身の胸元に私を抱き寄せるように、私の手を優しく引っ張って引き寄せた。 「(小狼or小猫)、ほら、捕まえた。」 宇軒は子供のような無邪気な笑顔を見せて私に微笑んだ。 「う、ううっ」 宇軒に抱きしめられた私は、思わず泣いてしまった。 「どうしたんだい?ほらこれでその涙を拭くといい。綺麗な顔が、綺麗な化粧が崩れてしまうよ。」 「あ、ありがとう…」 私が涙を拭いている間、パカラッパカラッと外から馬の足音とガラガラガラと重たいものを乗せた何かがこの妓楼(ぎろう)に近づいてきた。 妓楼の前に着いた途端、その音(ね)が止んだ。 「うん、着いたね。今日、君を買う話を婆にもちかける予定だったんだ。だから念の為、私が来た数時間後に金を詰んだ馬車が到着するようにしていたんだ。安心してくれ。もうすぐ、私が君をここから連れ出してあげるから。」 「うん、でも、」 「ん?」 「(劉(ラウ)or桜蘭(ロウラン))はどうしよう。」 「そうか、あの子もここに来ていたのか…」 宇軒は難しい顔をした。 「この妓楼は、1日に二人連れ出すことは禁止な上、雛の子達を連れ出すことは禁じられている。はて、どうしたものか。君のことだから、連れ出したいと言いたいのだろう?」 「そうなんだ。私はあの子たちを1番に連れ出してあげたい。」 「まぁ、気持ちはわかるさ。そうだね、連れ出せるように裏で手を回してみるよ。今僕は表舞台ではかなりの有名人になってしまってるからね、どうにかこうにかやってみよう。君の願いだ。やってみるよ。」 「ありがとう。」 「春麗様。」 召使いであろう男が私たちの部屋に来た。 「お疲れ様。ありがとう。すぐさま婆に金を渡してくれ。」 「かしこまりました。」 召使いは下に降りていった。 「これから宴が始まるだろう。さぁ、身支度し直しておいで。」 「わかった。」 そんな会話を交わしたあと、ピシャン!と襖を勢いよく開けた音がした。 「宇軒兄さん!」 「お、(劉or桜蘭)じゃないか。久しいね。元気していたか?」 そう宇軒は言い、蓮の頭を撫でた。 「蓮、お前に一言言わなければならない。」 「はい、白鈴様。」 「雪にも伝えてくれ、私は今晩、春麗様の元に行くと。」 「かしこまりました。白鈴様。いえ、(兄さんor姉さん)おめでとう。行ってらっしゃい。幸せになってね!」 少し泣きそうな顔を蓮はした。 「それでは、白鈴様が申されたとおり雪に件の事を伝えに参ります故、ここら辺で失礼いたします。では、ごゆっくり。」 蓮が部屋を後にした数時間後、私のための宴が開かれた。 蝶は踊り、雛は酒を注ぐ。 その中には蓮も雪もいた。 あの子たちを置いていくのは心苦しい。これからはただ、あの子たちに不幸が訪れないことを祈るしかない。 ─── 数年後 ─── 「さぁて、お前、名を決めようか。」 「はい。」 雛の僕らにどんな名前が着くのだろうか 「蓮、お前は、蝴蝶(フーティエ)だ。そして雪、お前は…そうだね、梨花(リファ)だ。」 蝴蝶:「はい。」 梨花:「はい。」 (※同時にお願いします。) 「今晩から客を取るんだ。いいね?わかったかい?」 蝴蝶:「かしこまりました。」 梨花:「かしこまりました。」 (※同時にお願いします。) 僕らは、あの方と同じように他の雛を連れて身支度をする。 夜がくる。客が来る。 「お初にお目にかかります。蝴蝶と申します。」 「お初にお目にかかります。梨花と申します。」 蝴蝶:「今晩のお相手、よろしくお願いいた     します。」 梨花:「今晩のお相手、よろしくお願いいた     します。」 (※同時にお願いします) これはとある花街の蝶たちの話である。
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