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3. 懐かしい場所
「本部長!」
暁朋彦が新幹線の改札を抜けると、一足早く現地入りしていた部下の柴田が駆け寄ってきた。
「お待ちしておりました。車にご案内します」
柴田に鞄を預けた朋彦は、駅のロータリーで黒塗りの社用車の後部座席に乗り込んだ。
「本日の予定ですが、支店へご案内した後、出店予定地の視察、そして地権者との……」
助手席の柴田から予定を聞きながら、朋彦は懐かしい街並みを眺めていた。
十五年ぶりの町は昔とあまり変わっていないように見えて、雑居ビルがいくつかなくなりそこに大きなビルが建っていたり、全国チェーンのカフェができていたり、過ぎ去った月日の長さを物語っていた。
「懐かしいな」
ぼそっと呟く。
「学生時代の四年間をこの町で過ごしたんだ」
「そうだったんですか!」
運転していた支店の若手社員が声を上げる。
同期入社の柴田は朋彦の経歴を知っていたが、支店の彼は知らなかったようだ。本社から経営者一族の娘婿が来たというので、興奮して張り切っている様子が窺えた。
あの替え玉は本物だった。祐作のポケットにあの玉を入れた翌日から、すべてが逆転し始めたのだ。
まず、祐作が何の手違いか内定取り消しになった。
そこにゼミの教授から朋彦に、暁フーズに欠員が出て知人から推薦を頼まれたので受けないかと話が来て、内定を獲得した。
暁フーズに入社した朋彦は、同期入社の煕子と知り合い付き合うようになり一年後にプロポーズした。
実は煕子は社長の一人娘だった。
社員とはいえ地方出身の朋彦では釣り合わないと、煕子の両親は当初結婚に反対した。けれども煕子の意志は固く、もともと一人娘に甘かった父親が最初に折れた。
朋彦は婿養子に入って暁の姓を名乗ることになり、出世コースに乗ることができた。
今では新規出店を計画する開発本部の本部長となり、全国を飛び回っている。
煕子との間には跡継ぎになる息子が生まれ、義両親に大層喜ばれた。妻は今でも美しく、そして大らかで明るく良い妻だった。
おそらく、祐作はあのまま入社すれば、煕子と結婚する運命だったのだろう。朋彦は替え玉によって、見事に祐作の人生と逆転させたのだ。
しかし朋彦は、最近、空虚な気持ちに襲われることがあった。
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