4. 婿養子

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4. 婿養子

 暁フーズの社長は義父であるが、取締役には義父の弟が二人入っている。それぞれに息子がおり、彼らも暁フーズで一定の役職についている。  自分は本部長という地位を与えられてはいるが、なかなか取締役に抜擢されない。二人の義叔父たちが常に目を光らせている。  万が一、今、義父が亡くなってしまったら……。朋彦は不安だった。  叔父のどちらかが社長に就任し、そのあとはその息子が継ぐという流れになり、朋彦が用無しになってしまうのは目に見えていた。  家でも肩身が狭い。  表面上はうまくやっているが、敷地内別居の義母は朋彦が婿であることを快く思っていないのが言葉の節々でわかる。  自分と義母の間を妻の煕子が上手く取り持ってくれればいいのだが、妻はそういった気の利いた性格ではなかった。  義母が言っていた朋彦への愚痴をあっけらかんと話すものだから余計落ち込む。  逆に煕子に愚痴でも言えば義両親に筒抜けになるのが目に見えているため、妻に話してストレス発散とはいかない。  妻や妻の一族のほとんどが、小学校から大学まで東京の名門私立である慶明(けいめい)を卒業していた。  その学友達との華やかな付き合いに、煕子は嬉々として出かけて行く。最初は朋彦も誘われたが、地方出の自分が馴染めるわけもなく、いつしか仕事を理由に断るようになった。  当然、息子も小学校から慶明というのが義父の方針だった。  ところが息子は小学校受験に落ちてしまう。はっきり言われたわけではないが、父親が慶明OBではないせいだと皆思ってるようで肩身が狭い。  息子は今、中学受験に向けて必死に勉強させられている。  慶明出身の柴田に愚痴ると同情してくれ、「少しでも早く入学させ、生涯の友を作ることが大事という考えの親が多い」と言う。  地方出身の朋彦には理解しがたい。  たまには孫の顔が見たいと実の両親に言われるが、普段は仕事で忙しい。  夏休みは息子は夏期講習があるし、お盆の時期は軽井沢の別荘に義父母と一緒に避暑に行く習慣がある。年末年始は義両親宅で親戚や友人とのパーティーだ。  田舎へ子供を連れて行きたいとは言い出せない。  大したもんだ、大出世だと、昔の彼を知る友人達は言ってくれる。しかし、なぜか虚しいと感じてしまうのだった。  そんな時に、この地への出張の話が出た。  今回も柴田が事前にすべて整えてくれているので、今日現地を視察して、明日は契約に立ち会えばいい。  今日は視察が終わったら少し自由時間を作って、気分転換に懐かしい町を見て回ろうと決めていた。
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