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スクリーンに映る場面が、琴森の勤務する現場に変わった。
青空の中、ヘリコプターが上空を飛ぶ。カメラは地上から上を見上げる視点だ。
ヘリはある位置でホバリングして止まった。視点が空中を映す位置に変わり、固定されたスクリーンの中で、レスキュー隊の隊員服を着た琴森が、救助用のロープで上から下に降りていく。
『もう大丈夫ですよ』
琴森が救助対象に声をかけながら、手際良く救助対象にエバックハーネスをセットしていく。相手は俺なんだけど、顔が映らないように撮られていた。
琴森が救助対象を抱えて、ロープを引っ張り、上に引き上げてもらう。ヘリが動きだし、地面から持ち上げられた二人が風に吹かれて揺れている状況が映った。背景に濁流の河が映る。河川敷に取り残された要救助者を救助した、というエピソードのようだ。
ヘリとロープの先の部分が同時に映らないよう、カメラワークが工夫されていた。合成技術が凄い。
次に、『俺』の職場環境が映った。
明かりが落とされた薄暗い部屋で、俺が背もたれのある椅子に座っている。沢山のモニター画面を前に、パネルの縁に手を置いて、無表情のスーツ姿の俺が映っていた。
撮影時、モニター画面には青い海の映像が映っていたんだけど、スクリーンの中の映像では、そこに白い機影が映っていた。
そこに、英語で低い人工音声が入る。
『Ready──aim──fire.』
俺はパネルの縁に手を置いたまま、日本語で呟く。
『できません』
そこに一瞬だけ、マイケルさんに敬礼する新兵集団の白黒場面が挿入された。回想シーンだ。
また、室内の景色に替わり、人工音声が響く。
『shoot him.』
俺は膝に手を置いて視線を下に向けた。
『できません』
次の回想シーンは、ホームパーティのシーンだった。白黒の景色の中、皆、笑っている。
食っている時は気づかなかったな。梨木さんは、手だけ、映像に映っていた。ビールの乾杯の場面に、一人だけ女性の手が映っている。
また、画面が薄暗い室内に切り替わった。
人工音声が響く。
『Commence fire.』
俺は拳を握って目を閉じた。
『できません』
スクリーンが一瞬真っ暗になって、遠くにボンッという効果音が入った。
また、狭そうな室内の映像が映る。
スクリーンの中の俺が、ゆっくりと目を開けた。俺の目元だけがアップされる。瞳の中に青いモニター画面が写りこんでいた。
視点が切り替わり、室内のモニター画面やパネルを正面にして、背もたれのある椅子が映った。モニターの明かりの反射で、椅子のフォルムは真っ黒だ。
アップされたモニター画面には、青い海と白い雲が映っていた。さっきまでモニターに映っていた白い機影はどこにもない。
また、人工音声が流れた。
『You achieved results.』
俺の無表情の顔がアップで映る。
単に俺に演技する技術がなかっただけなんだけど、スクリーンで見ると、心が壊れた人間のように映って見えた。梨木さんの編集技術、すげぇ。
スクリーンの背景がまた真っ黒になって、白い文字が浮かび上がった。
『一人は人を救うため、どこにでも救助に駆けつけた』
『一人は人を救うため、自分の手を汚す道を選んだ』
『闇に染まった組織の膿を取り除くため』
『分かち合うことの出来ない正義を掲げて』
『それぞれの戦いの日々が、始まる』
そして、冒頭のシーンが再び流れる。
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