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 夜景の景色から、燃える素材が散乱する橋の上へとカメラの視点が変わる。  周囲を見渡し、台詞を言う琴森。  ビルの屋上で台詞を言う俺。  スクリーンの背景が真っ黒になって、白い文字が浮かぶ。 『行き過ぎた正義は暴走し、やがて破滅を招く』  画面が切り替わり、瓦礫の建物の中に、外から琴森が走り込んで来る。  周囲を探し回りながら、奥に進んでいく。  倒れている人影を見つけて、琴森が駆け寄る。倒れている人物は俺だ。  俺の顔は粉塵で汚れていたけど、眠るように安らかな表情だった。  実際この時の俺は、耳栓して目を閉じているんだけど。  琴森は表情がストンと抜けたように、無表情になって立ち止まった。  それから、琴森はゆっくり歩いてきて、俺の肩口の側に片膝をつき、しゃがみこんだ。俺の鼻と口元に手をかざし、呼吸を確認した後、首に指を当てた。頸動脈のところだ。  手を離して、琴森がしゃがんだまま俺を見つめる。  瓦礫の山の向こうに、通行人の声や雑踏の音が聞こえてきて、更に遠くからサイレンの音が聞こえてきた。  また、画面が切り替わる。  明るい日差しの中、黒い礼服を着た琴森が緑の墓地の中を歩いていく。  ある場所で立ち止まって、白い百合の花束をそっと置いた。  じっと地面を見つめる琴森の表情が、アップで映る。  ここで、回想シーンが挿入された。  山の中の二人の登山シーン、バーベキューのシーン、集団での敬礼シーン、廊下で俺と琴森が握手しているシーン。サブリミナルのように、淡いカラーの色合いで、スクリーンの端がぼやけた情景で映された。  琴森が抱える思い出は、俺が抱えていたモノクロの思い出とは違って、彩りのある日々として演出されている。  琴森が空を見上げて、眩しさに目を細めた後、腕で顔を隠した。  雲の隙間から日の光が放射線状に伸びている。鮮やかな青空だった。  そこに、白地の文字が浮かび上がる。 『fin』  スクリーンの背景が真っ黒になって、下から白地の文字のエンドロールが上に向かって流れてきた。  『cast』『special cast』『script』『songs』『director』……。  氏名がローマ字表記で、はっきり読み取れないようボカされていた。BGMが良い感じで、仕上がりが本当に映画みたいだ。  左右から幕がスルスル閉じてきて、シアタールームの室内の照明がついた。
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