プロローグ

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プロローグ

 ある日の夜、俺は同居人から無茶な提案をされて、声を上げた。 「松芳(まつよし)、やってみない?」 「え!? 俳優の役を? 無理だよ!」  提案者は俺の同居人、琴森(こともり)(りょう)。性別、男。現世では普通の会社員だが、別の世界では俳優業をやっている兼業(けんぎょう)俳優だ。  対する俺、松芳(まつよし)直樹(なおき)は、現世でも別の世界でも普通の会社員。性別、男。SEという技術職。営業スマイルから縁遠い生活を送っている一般人だ。 「素人でもいいって監督が言っていた。松芳、前に観てみたいって言っていたでしょ。いい機会だし、来てみない? 面白いよ?」 「そりゃ、観てみたいけど……」  今度、琴森の出演予定の短編映画の役者を、急遽(きゅうきょ)募集することになったという。そして、同居人である俺に声がかかった。  無茶ぶりにも程があると思う。 「参加者としてなら、俺の出る作品を見ることができるよ」  琴森は笑顔で詰めてくる。 「……それさぁ、募集している役ってどういう役なの?」 「恋愛未満から始まる相棒……兼恋人の役」 「……無理無理無理」 「俺の相手役、嫌?」 「いやいや、そーじゃないだろ。き、気まずくなるだろ!?」  仮にも一緒に暮らしているんだぞ!? ラブシーンとかあったらどうするんだよ! 「俺達、結婚前提で同居を始めたんじゃなかったっけ?」 「そっ……そうだけど……」  そうだった。諸事情で俺と琴森は同居を始めたんだけど、順調にいけば、これから婚姻届を出す予定だった。  あれ? 俺達、契約結婚じゃなかったっけ?  色々話し合った結果、俺は琴森に言いくるめられて、面会日に(くだん)の映画監督と会うことになった。  撮影場所となる『集合的無意識』エリア――天国の一角、正確には、霊界(れいかい)の中で一番地上に近い幽界(ゆうかい)の、一部区画にある領域で。
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