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直接会って香澄ちゃんに全てを打ち明ける決意を固めると、そのタイミングでスマホが鳴って友梨から電話が掛かってきた。
「はいもしもし」
『もしもしって。お兄ちゃん、あの女の面倒見てるって正気なの』
「またその話か」
『だいたいなんで、お父さんの浮気相手が産んだ子なんかと関わるのよ』
「友梨、お前が関わろうとしない間に色々あったんだよ」
興奮してケンカ腰の妹に、元村さんが他界してることや、遥香の婚約者が痛ましい事故で亡くなったことを説明すると、さすがに同情心が芽生えたのか友梨は静かになった。
「不倫で生まれた子だからって、親戚も頼れない状況で、やっと掴んだ幸せが目の前から消えてなくなったんだ。少しも可哀想だとは思えないか?」
『だからって、お兄ちゃんがそこまでしなくても』
「母親が違っても俺らの妹に変わりはない。不倫は親父の勝手で、遥香自身に罪はないだろ」
『お兄ちゃん……』
「それより香澄ちゃんは? 引っ越してから様子を見に行けてないんだけど、不自由なく過ごしてるのか」
『問題はないみたい。今度また顔を出すつもりだけど、お兄ちゃんが香澄ちゃんを気に掛けるなんて、どうかしたの』
「いや、うちは広いからさ。寂しく過ごしてなければ良いなって思ってね」
友梨にはまだ香澄ちゃんとのことを話せていない。
今の俺は遥香の面倒を見てることも手伝って、何より友梨の友達の従姉妹から預かることを頼まれている、一回り以上歳の離れた香澄ちゃんを汚してしまったような罪悪感がある。
『ねえ、お兄ちゃん』
「なんだよ」
『ううん。やっぱりなんでもない。遥香のことで困ったことがあったら言って。私も一応三児の母だし、力になれることなら手伝うわよ』
「そうか。遥香も喜ぶよ」
『それから、遥香に辛く当たってきてごめんって伝えといて。フィアンセのことも、お悔やみ申し上げます』
「分かった。でももし頼めるなら、直接お前の口から言ってやれ。気力も落ちてるから、助けてやって欲しい」
『分かった。でも、少し時間をちょうだい。そう簡単に割り切れる話じゃないのは分かるでしょ』
「ああ、そうだな。じゃあまたな」
電話を切ると、ドッと疲れが押し寄せる。
するとどうしようもなく、香澄ちゃんに会いたくなって、未練がましく既読のつかない画面を眺め続けた。
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