気儘な生活の終わりと新たな出会い

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気儘な生活の終わりと新たな出会い

 ルームシェアは便利なモノだけど、時として残酷な現実を突き付ける。 「ごめん」 「なに突然、どしたの。あ、またなんか割ったの」 「違う違う、そうじゃないの」 「じゃあ何」 「私この家から出てく」 「は? なんで」 「出来たの、赤ちゃん」  最高の笑顔と左手の薬指に光るダイヤモンドリング。それはまさに青天の霹靂だった。  茹だるような暑さが続く八月。  私、 伊原(いはら) 香澄(かすみ)は冷房がガンガン効いた八畳の洋室で、セミダブルのベッドに一人寝転んで、抱き枕を押し潰す勢いで抱き締めてる。 「そりゃさ、彼氏の方が大事だろうけどさ、それにしたって急すぎるよ。美咲の裏切り者」  唐突な退去申告は今朝のこと。  ルームシェア相手である 鈴木(すずき) 美咲(みさき)とは、中学の頃からの大親友で、大学進学を機に実家を出て、同じ屋根の下に住んで九年目。  そこらへんのカップルなんかより、長い間共同生活をして、ルールも守って楽しくやってきたはずだ。  それなのに。  美咲に一年ぶりに彼氏が出来たのはつい最近、三ヶ月前のゴールデンウィークに、同窓会で再会した高校の同級生と意気投合したまでは良い、きっとどこにでもある話かも知れない。  だけど、たったの三ヶ月。  それなのに、美咲はそのたった三ヶ月で、彼氏と授かり婚が決まってしまった。  片や私といえば、もう三年以上も彼氏は居ない。 「おめでたいことに文句言いたくないけどさ」  美咲が彼氏、いや、旦那さんとここに住むのかと思いきや、二人はファミリー向けの新居を探して引っ越すことになり、どのみち私には、この部屋に住み続ける選択肢はない。  都内のそこそこ便利な立地、オートロック付きの2LDKの築十年のマンションは、社会人五年目の私が一人で借り続けられるほど家賃も安くない。  それに私には、ルームシェアするほど気心の知れた相手なんて、美咲の他には友人や知人の中にもいやしないんだから。 「はあぁ。電化製品は置いていってくれたから、確かに生活には困らないだろうけど、敷金礼金と毎月の家賃、本当にどうしよう」  預金通帳の残高もそう多くない。  とにかく急なことだったので、新居が見つかるまでは、美咲と旦那さんが家賃をカバーしてくれる約束になってるけど、新婚で何かと入用な二人に長々と迷惑を掛けるワケにもいかない。  かと言って、八年以上も気ままに過ごしてきて、今更実家に戻って生活するのはどう考えても無理がある。
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