埋まらない心の隙間

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 だから福岡に着いたらきちんと電話して話し合おうと決心すると、今は何も考えたくなくて、静かに目を閉じてイヤホンで雑音を遮断した。  羽田空港を飛び立ってどれくらい経ったのか、緊張して張り詰めていた糸が切れたらしく、目が覚めると、着陸のためにシートベルトの着用を促すアナウンスが流れ始めた。  一時間半くらい、ぐっすりと眠っていたということだろうか。  ぼんやりと窓の外に見え始めた夜景を見下ろすと、ペットボトルの水を飲んで口の渇きを癒す。  仕事のミスを反省しなければいけないのに、真っ先に樹貴さんのことを考えてしまうことが情けなくて、恥ずかしさから泣きそうになるのを必死で堪えて上を向く。  程なくして福岡空港に飛行機が着陸すると、預けた荷物を回収してから地下鉄に乗り込み、祖母が暮らす街の最寄り駅まで電車に揺られる。 「あ、おばあちゃんにお土産買い忘れた」  駅前の商店街のスーパーに立ち寄って、祖母が好きな塩豆大福と、家にはないだろうビールとワインを買い込むと、いつも持ち歩く癖がついたエコバッグに詰め込んで店を出た。  陽が落ちた裏通りを、コロコロとトランクケースを引きずる音が響いて、時折晩ご飯の匂いだろう、住宅街を抜けると良い匂いがして来て、ひどく人恋しい気持ちになる。  十分ほど歩いて祖母の家に到着すると、おばあちゃんの匂いがして、それほどまで遠くに来たのだと実感した。 「まあまあ、よく来たね」 「ごめんね。急に休みが取れたから来ちゃった」  言いながら買って来た塩豆大福を手渡すと、仏前に備えてからいただくわと、祖母がにっこり笑う。 「お腹は空いてないの? おばあちゃんの手料理で良かったら、煮物とコロッケがあるし、お好み焼いても良いよ」 「じゃあ、もらおうかな。手を洗ってくるね」  洗面所で手を洗うと、鏡に映った自分の顔が、思っていたよりもげっそりしたように見えて、これじゃ休めと言われる訳だなと苦笑する。  台所に戻ると、何も聞かずに私の料理の支度をしてくれる祖母の背中を見つめて、ポケットに入れたままだったスマホの機内モードを解除をした。
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