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決裂
ビールを飲みながら手料理を食べて、何も聞かないで居てくれる祖母とたわいない話をすると、そろそろ寝るからとあくびをした祖母は、客間に布団を支度して台所を離れた。
分かっていても、あえて聞かない優しさもあるのかと、こんな時に祖母の愛情に触れて、自分はどうするべきなのか、樹貴さんとの向き合い方を教えてみる。
本当のことを知りたいクセに、樹貴さんを避けてばかりで、信じたい気持ちよりも猜疑心が大きくなっていては、冷静に話が出来るとも思えない。
食事の後片付けを済ませてからお風呂に入って、客間に敷かれた布団に寝転がる。
「ふふ、おばあちゃんちの匂いがする」
場所が離れていることもあるし、忙しさにかまけていつも電話で挨拶を済ませていたけど、こんな風に急に訪ねて来ても文句一つ言われないことが純粋に嬉しかった。
きっと樹貴さんだってそうだ。
付き合った期間は確かに短いけど、いつだって私を気に掛けて、私に合わせようとして、あんなに忙しい人なのに、時間を割いて私に会う時間を作ってくれていた。
ショルダーバッグから取り出したスマホで時間を確認すると、もう日付を跨いで夜中になっている。
だけど身勝手にも声が聞きたくなって、電話のマークのアイコンをタップして、リダイアルで樹貴さんに電話をかける。
1コール、2コール。
呼び出し音が鳴る度に緊張でドキドキと心臓がうるさくなる。
そして4コールほど鳴ったところで、ようやく電話が繋がった。
『はいもしもし』
「…………」
スピーカーの向こうから聞こえる大好きな声に、色んな感情が暴れ出して言葉に詰まる。
『もしもし、香澄ちゃん? 』
「……」
『電話くれてありがとう。元気にしてるのかな』
「あの、私」
『良かった。大好きな君の声だ。間違い電話じゃなかったんだね』
「すみません、こんな真夜中に」
『香澄ちゃんからの電話なら、何時だって大歓迎だよ』
優しい声から、スマホの向こうで彼がどんな顔をしているのか手に取るように伝わってくる。
「あの、樹貴さん。私、樹貴さんに聞きた……」
聞きたいことがある。単純だけど言い出せなかった言葉をようやく吐き出したのに、それが遮られる。
『樹貴くん! 急にお腹が……』
スピーカー越しに、樹貴さんのそばで彼を親しげに呼ぶ女性の声がすると、なんの説明もなくマイクが切られて放置され、通話中なのに向こうの様子が一切分からなくなる。
その人は誰ですか。お腹って、前に友梨さんと話してた赤ちゃんのことですか。
簡単なことなのに、切り出すのは容易じゃない。
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