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どんなに仕事が忙しくても、樹貴さんがそばに付いていてあげることを選んだ女性。
私となんか、もう一ヶ月近く顔を合わせていないのに、私じゃない別の女性がそばに居ることがもう耐えられなかった。
どんな理由があったって、そんなの許せるはずがない。
狭量だろうかと自嘲してワインを飲み下すと、樹貴さんに初めて会った晩みたいにしゃっくりが出た。
「うっ、うう」
泣くなと思っても、溢れ出す涙を止められない。
あの時出会ってなかったら、一緒にご飯を食べるのを断っていたら、二軒目のバーについて行かなければ、夜を共にしなければ。
彼が友梨さんのお兄さんじゃなかったら、別の部屋をきちんと自分で探していれば。
もう巻き戻せないことを後悔したって遅いのは分かってるのに、樹貴さんを好きにならなければ良かったと、心が軋むほど苦しくなって涙が止まらない。
三年ぶりに恋をして、こんなにもすぐ終わりが来るなんて、神様がいるなら随分と残酷なことをする。
私は別に大きな見返りを求めた訳じゃない。ただ純粋に樹貴さんを好きになっただけ。
「なんでこんなことになっちゃったんだろう」
引っ越しの日、友梨さんとの電話を終えた樹貴さんに、その場で問いただせば良かった。
その後だって何度も問いただすチャンスはあった。
それなのに、別れ話をされるのが怖くて、もしかしたら自分よりもハルカさんを選ばれるのが怖くて、何も言い出せなかった。
だから結局こんな結果になってしまった。
「しばらくこっちに居ることにして正解だったかも」
下手に家に居れば、樹貴さんが訪ねてくることがあるかも知れない。
それに、どのみちこんな気持ちのままでは、また仕事でミスをやらかしてしまうかも知れない。
もうこれ以上、樹貴さんのことを考えるのはやめよう。
家に帰ってから鉢合わせする問題はあるかも知れないけど、さっさと新しい部屋を見つけて引っ越してしまえばいい。
結局、私には樹貴さんは高嶺の花過ぎたんだ。
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