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行き違ったまま後悔しないように、私はようやく決意して樹貴さんのブロックを解除すると、メッセージを送った。
二度と連絡して来ないでくださいと言ったのは私なのに、本当に身勝手だと思うけど、祖母に言われてつまらない意地を張って後悔したくないと思ったから。
ハルカさんのこともあるだろうし、ただでさえTOKYOガールズパーティーが目前に迫っていて、樹貴さんは普段以上に忙しいはずだ。
だから今はメッセージに既読がつく様子はないけれど、もし返事が来たら、まずは素直に謝りたい。
そうして祖母と二人で温泉旅行の準備をすると、早めに夕食を済ませて交代でお風呂に入り、二十時過ぎには布団に入って翌日に備える。
充電器に繋いだスマホを眺めながら、宿の近くで観光するならどこが良いか調べながら、久々に楽しい気持ちでワクワクしてる。
祖母だって祖父のことがあるから、自分だけが遠出なんてする気も起こらないだろうし、たまに出来る恩返しみたいなものだから楽しんで欲しい。
近場の観光スポットを調べていると、不意にスマホが震えて、電話の着信を知らせる珍しい相手に慌てて電話に出る。
「はいもしもし」
『香澄、あんた今どこに居るのよ』
「どこっておばあちゃんに会いに福岡に来てる」
『はあ? なんでまた急に』
「まとまった休みが久々に取れたから、おばあちゃんに会いたかったの。それよりそっちこそ急にどうしたの、お母さん」
そう。電話をかけて来たのは母だった。
『美咲ちゃんのママから連絡があったのよ。美咲ちゃん結婚したって言うじゃない。一緒に部屋を借りてたでしょ、あの家はどうしたの』
「ああ、それなら引っ越したよ」
『もう、あんたもいい大人なんだから、それならそうと連絡ぐらいしなさい。送った荷物が返ってきたからびっくりしたのよ』
「ごめんね。バタバタしてて忘れてた」
引っ越しは菜穂ちゃんの紹介で、良いところに住めることになった報告をすると、しばらく世間話をしてから電話を切った。
「香澄? まだ起きてるの」
客間の襖が開いて祖母が顔を覗かせる。
「ごめん、うるさかったよね。お母さんから電話かかって来て、おばあちゃんに代われってうるさかったけど、明日から温泉行くからって言ったらズルいって」
「あの子は本当に、いつまで経っても子どもみたいなことを。香澄とどっちが親なのか分かんないわね」
寝付けないから梅酒を飲むと言う祖母に、私は運転があるから、万が一があってはいけないので麦茶にすると断って、結局小一時間話し込んでから再び床についた。
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