第1話  火照る -HOTEL-

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第1話  火照る -HOTEL-

このラブホも全室満室。コレで6軒目だ。 オレは舌打ちして受付を出た。 鶯谷でデリヘルの予約をしたは良いが、まさかホテルが取れないとは。イブだから、どうせカップルでの利用だろ。ラブホなんか使わないで、星付きのホテルでディナーでも食ってろ。 ラブホが全滅では、キャンセルを入れなければならない。 ラブホ難民ほど惨めな存在も珍しいだろう。折角贔屓の嬢の予約が取れたのに。先ほどまで期待で火照っていた俺の心は、既に冷め切っている。 近くで歌が流れてきた。何がSilent Night Holy Night だ。静かな夜に間違い無いが、ホーリーナイトどころかホーリーシットだ。このシットってのは、聖なる夜にホテルを無事に取れて、お相手と性なる夜と洒落込んでよろしくヤってる、現時刻の鶯谷の全ラブホ利用者に対する嫉妬も含んでいる。……って、洒落を考えついてる場合じゃねえ。 あ、予約確認電話の時間だ。予約の1時間前に店に入れなきゃいけない。 さあどうする。 俺は逡巡したのち、携帯を操作して電話をかけた。 「はい、〇〇鶯谷店です」 オレの予約を受けた男の声だ。嫉妬の炎に火照ったオレは観念して 「Silent jealousy って曲、好き?」
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