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 杉山はまさに今から歌い始めようとしている路上ミュージシャンの元へ向かった。 −久しぶり。ちょっとだけ久しぶりに歌わせて− 「杉山、路上ミュージシャンの返事も聞かずにスタンドマイクを奪いました。これは相当不自然だと思うんですが、どうなんでしょうか兼田さん」 「不自然ですけど、作戦がありそうですね」 −久しぶりに歌います。聴いてください。 『久しぶり』−  そう言うと杉山は指を鳴らしながら歌い始めた。 「♪久しぶりだねえ   久しぶりでもないか   久しぶりな気がするけど  久しぶりっていいよね〜♪」  そこで持ち時間終了のブザーが鳴り響いた。 「さあここでタイムアップです!兼田さん、最後の歌はいかがだったでしょうか?」 「『久しぶり』という曲の歌詞だとすればそれほどの不自然減点はなさそうですが、メロディーがまとまってなくて不自然でしたのであまり高いポイントは期待できないかもしれません」 「即興のメロディーまで採点対象となるとやはり厳しいですかねぇ。  さあ、注目の判定です!!」  5人の審査員がそれぞれの得点がモニターに映し出された。 「杉山の得点は……5.76、6.24、6.08、5.11、4.88、合計28.07です。首を傾げて悔しそうな表情の杉山」 「やはりまあ、強引にねじ込んだ『久しぶり』が目立ちましたのでね、この点数は妥当だと思います」 「そうですか。気合いが裏目に出てしまったか、杉山の決勝進出は少し厳しそうです」    肩を落とした杉山がフレームアウトするのと入れ替りに、アイマスクをさせられた次の選手がスタート位置についた。 「さて、次は東京都世田谷区出身の嘉瀬咲良(かせさくら)、18歳です!」 「期待の新星ですよ。予選ではやや早口で不自然減点取られてましたけど、その弱点を克服してきてたらかなりいいところまで行けるポテンシャルは秘めていると思います」  嘉瀬がアイマスクをはずし、会場が商店街であることを認識した。 「選手ごとにお題が変わります。さあ、どんなお題になるのか!」  電光掲示板がお題を示した。 「決まりました!嘉瀬のお題は『実際問題』!!  このお題はどうでしょう兼田さん」 「いかに口癖のように使えるかがカギになりそうですね」  全国各地で「The 言葉コンテスト」はまだまだ続く。                 <終>
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