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「さあ杉山、隣のたいやき屋に移りました」 −大将久しぶり。あ、まだ"およげ!たいやきくん"のステッカーあるの。懐かしい。久しぶりに見たよ。また来るね−  杉山はここでも一方的に喋って隣の店へ移動を始めた。 「兼田さん、今の『久しぶり』はどうでしょうか」 「先に『懐かしい』と言ってしまったのは減点になりますね。残念です」 「ああたしかに。『懐かしい』と『久しぶり』は似たニュアンスがあるのでやや不自然でしたか。  さあ杉山、次は隣の魚屋で立ち止まりました。残り時間は40秒!」 −ども久しぶり。久しぶりって言ったらブリが食べたくなっちゃった。久しぶりに照り焼きで食べようかな。いや久しぶりに煮付けにするか。いや久しぶりに西京焼きもいいな。久しぶりに家内と相談してからまた来るよ− 「ここで杉山、たたみかけてきましたぁっっ!最初からこの魚屋で連発するために前までの店では時間を使わなかったんでしょうか!?」 「おそらくそうだと思います。二回目の『久しぶり』で年配選手が好むダジャレテクニックを使ってましたが、お題が出て魚屋を見つけた時にこの作戦を立てたんでしょう。三回目のまでは自然と判定されると思います」 「四回目以降は不自然ですか」 「だいぶ不自然でしたね。特に最後のは完全に蛇足です」 「やはり同じ相手に連発するのは難しい言葉でしたか。兼田さんからは厳しい評価ですが、次はどう出るか杉山」 「すぐ近くにはもう個人商店がなさそうですね。コンビニとか牛丼屋では『久しぶり』をかせぐのに効率がよくないですからね」 「まもなく残り20秒というところ。おっと杉山、ここで新たな動きに出ました!」
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