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「……最近はデータマネジメントが主流なので、そのアプローチのアセットを作っていました。これを利用するとどんな会社でも素早くデータ分析にとりかかれるんです」
「……それは便利そうだ。人の役に立って、ウン、すごいことだ。頑張ったんだな、雫さんは」
「その、……雪さんのお仕事は?」
雪は一呼吸おいてから「俺は土地守りをしている」と話し出した。
「あれこれ相談を受けて、あれこれと調整する、そんな役回りだ。かれこれ……いや、そこそこ長くやっていた……が、そろそろ代替わりをし、結婚したらどうかと言われてな……」
「代替わり?」
「現場は甥に譲り、俺は後ろで支えることになった。ウン、……」
「……寂しくなりますね」
「ム、……でもそれで新しい生活が始まるなら、楽しみだ」
雫は『大事にしていた仕事を譲るのに、それを楽しみにできる。立派な人だなあ』と感じた。それは敬意であり、つまり平たく言えば恋の始まりである。
「その土地はどちらなんですか?」
「ここからは遠いが、気になるか?」
「……結婚生活はどこで、送りたいですか?」
雪は優しく微笑んだ。
「俺の住んでいるところは都会から外れる。だから雫さんさえよければ、俺がこちらに越そう。荷物はほとんどないからな、なんなら今日からでも越せるぐらいだ」
「今日から!? 家に来る!? 私の!?」
「いや、そうじゃなくてな……つまり、俺が言いたいことは……」
雪はそこで深呼吸をした。
「この街で、俺との結婚を考えてくれないか?」
「ヒェ!? 初対面ですけど、そんな……」
「それも『あんな』初対面だ。最悪だ……。なのに、かわいいって言ってくれた……俺はあなたを逃がしたくない」
雪の顔は赤い。でも雫の顔も赤かった。
「俺に出来ることはなんでもするし、出来ないことも出来るようになる。あなたのために努力させてほしい。俺は、あなたがいい。……だから、俺と結婚を前提に、交際してくれないか?」
「ひぇ、あ、はあ、はい、……」
「……いいのか?」
「ひゃい……」
かくして雫の押し負けのような形ではあるが、また小日向結婚相談所は新しいカップルを産み出したのである。
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