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◇
――さて、週末が来た。
雫もとても緊張していた。
自分で決断したこととはいえお見合いは初めてだ。しかも相手は好みのど真ん中だ、初回だが絶対に失敗したくない。服装は前日に決めていたが、化粧は前日から仕込めない。きつく見えないようにと購入していた淡い色味のアイシャドウは、当日使ってみたら思っていたよりやぼったくなり、洗顔から全部やり直すことになった。香水をつけるかつけないかで悩んでいるうちに汗をかき、結局決めていた服も替えなくてはいけなくなった。
そんな風に彼女は緊張しており、けれど楽しみで、かなり早めに彼女は小日向結婚相談所の門をくぐることになった。今日もまた美しい受付嬢が彼女を迎え入れ、相談室に案内しようとしたところで、梢もやって来た。梢は艶やかな紅をひき、季節の着物を身に着けている。
「雫さま、お待ちしておりました」
「楽しみで、早めについてしまいました」
「うふふ、お相手の方もそのようでもうお待ちです」
梢は受付嬢を視線だけで下がらせると「ご案内いたしますね」と雫の先を歩いた。
「緊張されてますか?」
「いえ、……いや、本当は震えるのをこらえるので精一杯。こういうところがあか抜けなくて……」
「チャーミングというんですよ。でも緊張しすぎないでください。顔を楽しんでやろう、そのぐらいの気持ちでいいんです。せっかくのイケメンですから」
「あは、そうですね」
明け透けな梢の言葉に雫は心から笑い、少しだけリラックスした。その事を確認してから「いきましょうか」と梢は相談室の扉を開けた。
その扉の先には――蛇がいた。
「「「……」」」
真っ白に輝く鱗、赤色の瞳をもったその蛇の体長はゆうに百メートルを超えるだろう。そんな蛇が相談所のソファーに頭をあずけ、部屋中を使ってとぐろを巻いていた。
その光景を見た瞬間に梢は舌打ちをした。その『蛇』の正体を梢は知っていたためだ。梢の目は『なにやってんだてめえコラ』と言っており、蛇は蛇で『寒かったんだから仕方なかろう!』と訴えていた。だが、梢は蛇の訴えは無視して、まず自分の大事な顧客である雫を見た。
「申し訳ありません……」
そこで梢は言葉を止めた。というよりも梢にしては珍しく驚きのあまり、言葉を止めてしまった。そのぐらい予想外に、――雫の顔が明るかったからだ。
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