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実は写真を見たときに雫はこう思っていたのだ。
(ど真ん中ストレートに好みの蛇を飼っていらっしゃる! ああ、もっと大きければもっと最高なのに!)
「……かわいい」
なので雫の第一声はそれになった。
その言葉に梢が無言でガッツポーズをする一方、蛇はわかりやすく動揺していた。が、商売上手の梢は蛇の動揺など気にもしない。
「雫さま、触っても大丈夫ですよ?」
「え!? いいんですか!?」
雫も驚いたような声を上げたが、蛇も蛇で『え!?』と反応していた。が、梢は全く気にした様子なく「どうぞどうぞ、この蛇はいくら撫ででも問題ありません」と雫をうながす。蛇は梢の言葉に覚悟を決めたのか、ゆっくりと頭を雫に近づけた。雫もまた驚かせないようにゆっくりと手を差し出す。
そして雫は、手の甲で優しく蛇の頭を撫でた。
「かわいい……」
梢は雫を注意深く観察する
「雫さま、例えばのお話ですよ?」
「ハンドリングできるなんて、可愛いが過ぎる、この子……」
雫は蛇に夢中で全く話を聞いていないようだ。が、好都合と梢は話を続ける。
「寒い日に、体が蛇になってしまう特殊な体質の方についてどう思います?」
「蛇に限らずですが、爬虫類は温度湿度はちゃんと管理してあげないといけませんから……」
「……では、旦那さまがそんな感じの白蛇でしたら、どうです?」
「え、最高」
白蛇の顎を撫でながらこぼした雫の言葉は誰が聞いても本音だった。梢は営業スマイルのまま音を立てずにガッツポーズを決め、撫でられていた蛇は目を見開く。
「じゃあ雫さま、この蛇と暮らせたらうれしいですか?」
「こんな蛇さんと暮らせたら最高です」
「……ということですよ。雪さま、そろそろ戻ってください」
梢の言葉に蛇がシュルシュルと返事をする。
蛇は雫の前でとぐろをまき、小さく、小さくまとまり、ふっと『人になった』。
「……一色 雪と申す」
立ち上がった男は真っ白な肌を真っ赤に染めていた。雫はぽかんと彼を見上げ「はい?」と言った。
「あの、蛇さんはどこに……」
「俺だ」
「へ?」
男が顔を真っ赤にしたまま雫に手を差し出し、彼女は動揺のまま彼の手をとり「あ」と声をあげる。彼の手は冷たく、蛇の温度だった。
握手をする二人を見ていた梢はパンと柏手をうった。
「ではあとはお二人で」
「「え」」
「一時間後に戻ります。では、……」
「待て、梢、お前、待て、俺、……」
「しゃきっとしなさい!」
「ギャン! 殴らんでもいいだろ!」
かくして部屋には二人が残された。
二人はおろおろと視線を交わし、おそるおそるソファーに座る。雫の席にはカフェラテと苺のショートケーキ、雪の席には冷たい水と和菓子が用意されていた。
「……雫、さんと、呼んでもいいか?」
「あ、はい……」
ぎこちなく、彼らは会話を始めた。
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