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第一話 雫
――小日向結婚相談所。
大都会東京中央区銀座の片隅。飲み屋通りを抜けた先にある細い路地に置かれた、たまに点滅する看板にその文字は見つけられる。看板の古さからも分かる通り『かなり』老舗の結婚相談所だ。しかし、あなたはこの名前を聞いたことがないだろう。なぜなら小日向結婚相談所の会員は他の会員からの紹介のみ受け付けているからだ。
そのため大手に比べると会員はかなり少ない。しかしその分、会員一人一人を手厚くサポートする。どんな条件であっても希望通りの『最良』の結婚へ導いてくれ、成婚後もフォローを絶やさず、夫婦仲を円満にするためになら『なんだって』する。……というクチコミのような噂のような評判のような『伝説』のようなものが人伝にだけ残る、それがこの『小日向結婚相談所』だ。
――さて今日も、結婚を願う人が小日向結婚相談所にやってきたようだ。
淡い水色のスプリングコート、華奢なレモンイエローのヒール、赤味の抑えられた茶髪のロングヘアーは緩やかに巻かれている。これがこの物語の一人目のヒロイン『松下 雫』である。
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