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会計を済ませ、店を出た。
もう日が傾いていた。少ししか時間が経っていないように感じていたのに、私たちには長い時間が流れていた。
「じゃあ私、こっちだから」
駅とは反対方向を指差して、拓也に言う。
「うん」
拓也は少し微笑みながらこちらを見ていた。その顔は寂しそうに見えた。
「結婚するんだってな」
「えっ」
拓也は微笑んだまま言った。
「どうして、知ってるの」
「美香から聞いた」
「そっか」
私は目が合わせられなくなって、思わず俯いた。
「おめでとう」
「ありがとう」
自分から出たその五文字はちっぽけだった。二人の間に秋風が踊る。
「俺も、来世信じるよ」
漆黒の髪が夕日に照らされながら、ゆらゆらと揺れる。拓也はあの頃と同じ、くしゃっと笑った。
「私も」
精一杯、微笑んでそう言った。
私たちは、来世でも出会えるだろうか。私は、最悪な出会いをしても、もう一度拓也のことを好きになると思う。
拓也の後ろに夕焼けが輝く。
目を細めてしまうほど、眩しかった。
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