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拓也とは不思議な関係だった。恋人でもないのに、よく二人で出かけていた。あの頃、私は拓也に対して、もやもやとした感情を抱いていた。
部活の合奏の時も、私は指揮者よりも拓也のことを見ていた。トロンボーンの前には、サックスが座って演奏するから、自然と拓也が目に入った。
漆黒の髪を揺らしながら、真剣な表情でサックスを吹く拓也を私は目に焼き付けていた。その残り火が今でも瞼の裏に映る。
拓也はうちの吹奏楽部で一番上手いと言い切れるぐらいサックスが上手で、いつも周りに人がいた。私はいつまで経ってもその輪を見つめるだけだった。私はきっと、拓也のことが好きだったんだと思う。
このカフェに来たのも拓也とだった。駅前のお洒落なカフェに行きたいと、私が拓也を誘ったのだ。
いつも周りに人がいた拓也を独り占めできるのは心地よかった。このまま恋人になれたらなって思った時もあった。
拓也が飲めるものが何もない私とは裏腹に、ブラックコーヒーを注文していたのを思い出す。
昨日のことのようだけれど、もうあれから十二年も経っている。小学六年生が、もう小学校を卒業できる年月だ。
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