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3
「私、どうしようかな」
7月も後半に入り、定期試験が近くなった。
「どうするって?」
「大学をやめようかなって」
「まだ始まったばかりじゃん。晴香が出来ること、きっと晴香はまだ何もやっていない」
「私は真中さんみたいに割り切って考えられないから。私がここにいても仕方ない」
「それで後悔しないならいい」
「真中さんは後悔したことってないんですか。不安や挫折に打ち勝って、ずっと未来に希望を持ち続けていられるんですか」
「時が解決してくれることもある」
「そんなのわからないじゃない。私は・・・」
突然雨が降ってきた。
「・・・雨?」
晴香が呆然と空を見上げて言った。中庭のベンチに座っていた僕たちはスコールのような雨に打たれた。遠くから雷の音が聞こえた。
「建物の中に入ろう」
晴香は身じろぎもせず、雨に打たれた。
「真中さん。希伊子は真中さんのこと好きだって言ってました」
「は・・・?」
全身ずぶぬれになりながら、僕たちは春香のアパートにたどり着いた。晴香が先に部屋に入り着替えている間、僕は玄関で待った。
僕が部屋に入ると、晴香はスウェットの上下を着ていた。
「これ着てください。大き目だから真中さんにはちょうどいいかも」
僕はユニットバスの中でシャツとジーンズを脱ぎ、晴香がくれたスウェットを着た。
晴香がインスタントコーヒーをいれた。僕はフローリングの上に座り、晴香はベッドに腰を掛けた。
晴香がギターを弾き始めた。滑らかな指の動きで、途中で止めることなく、晴香は一曲を弾ききった。
「曲、出来たの」
「うん。とてもいいね」
「歌詞も付けたい。英語で」
僕は頷いた。
彼女が何度も曲を弾き、僕が歌詞を考えた。夕方までに歌詞が出来た。晴香は夕飯の支度を始めた。雨の音が激しさを増した。
「どうぞ」
僕たちは部屋の真ん中の小さなちゃぶ台を挟んで向かい合わせに座った。僕は晴香の作った野菜炒めを口にした。
「味、薄い?」
「素材の味が良くわかる」
「ちょっと薄いね」
夕食後、床に横になりながら晴香が食器を洗う音を聞いているうちに僕は眠ってしまった。気が付くと晴香が僕に毛布を掛けてくれていた。雨の音が続く窓の外はすっかり暗くなっていた。晴香はベッドに腰を掛けて僕の書いた歌詞を見ていた。僕は目をこすりながら起き上がり晴香の隣に座った。そして一緒に歌詞を見た。
「このままだとちょっと切ないかな」
「ありがとう。このままでいい」
晴香が僕に寄り添った。
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