神様の憂鬱

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 むかしむかし、地球がまだ神様の加護にあった頃。神様はこの惑星に新たに人間という生き物をつくりました。  人間は他の動物と同様、オス(男性)とメス(女性)、2種類の個体を用意され、神様は地球のあちこちに男性と女性を放ち、地球を繁栄させていってほしいと願いをこめました。  幾数年が経ち、神様は久しぶりに地球を覗いてみることにしました。  きっと、人間たちは愛を育み、和を以て貴しと為していることだろう。地球は美しく、とてもいい惑星だから賑やかになっているといい。  期待と希望に満ちた神様は地球を覗いて、自分の目を疑いました。  通常、生物は子孫繁栄のためにオスとメスが交尾をするものです。人間も例外ではなく、そのように性機能を備えたつもりでした。  しかし、神様が見た地球上の人間たちは、オスはオスと、メスはメスと愛を育んでおり、子孫は一つも生まれていなかったのです。  どうしたものか、と神様は考えます。  なぜ人間だけうまくいかないのだ。他の生物たちと何が違うのだ。  そうして気づきます。  神様は人間に"感情"と"言葉"という特別な能力を与えていました。それは他の生物には無い能力です。  神様は人間たちの暮らしを観察してみることにしました。  ある男性同士がお話をしています。 「女性というのは気難しくて気持ちがわかりづらい」 「女性は弱くて頼りにならない」  ある女性同士がお話をしています。 「男性というのは意地っ張りで偉そう」 「男性は強くて少し恐い」  男性も女性も同じことを言います。 「僕/私の気持ちをわかってくれるのは男性/女性だけだ」  なんということでしょう。  "感情"と"言葉"という能力をつけたばっかりに、彼らは意思疎通の末、子孫繁栄という任務を放棄し、同性同士でのみの交流を楽しんでいたのです。  このままでは人間は滅びてしまいます。  神様は考えに考えを重ね、とうとう、地球上から2人のみを残して人間を消してしまいました。  残された2人の人間は異性です。名を、男性をアダム、女性をイブと言います。  神様はアダムとイブに命令を下しました。 「これからは2人で生きていきなさい。他の人間はいません。愛を育み、子を作り、地球を繁栄させていきなさい」  こうして、アダムとイブは夫婦になり、子を作り、地球に人間を、人としての営みを繁栄させていきました。  神様は満足気に地球を見下ろします。地球はいい惑星です。  しかし、神様の憂鬱は消え失せてはいませんでした。  あのとき残してしまった2人の人間、アダムとイブは、真に愛し合っていたのでしょうか。分かり合えないといがみ合っていた男性と女性が、夫婦になって一生涯を共にする人生は、果たして本当に幸せだったのでしょうか。  今でこそ男性と女性が愛を育む循環が当たり前になっていますが、本来は違う生き物。そこに理解し難い事象が生まれるのは至極当然。  もしかしたら、同性愛こそが人間の本来の愛の形なのかもしれません。はたまた、違うからこそ分かり合おうとすることが本来の愛の形なのかも。  答えは神様ですら分かっていないのです。 fin.
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