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きっと、僕は今、悪魔になっているのだ。
今からでも遅くない。この手を離して包丁で自分の胸を刺せ。
誰かを手に掛けるなんて、そんな恐ろしいことをするな。
同時に、もう一人の僕が笑う。
いやいや。この女のために死ぬなんて馬鹿げている。
冬花の首を締め上げながら、必死に彼女との出会いから、楽しかった思い出を振り返る。けれど、手のひらからこぼれ落ちる砂のように、何の感情も湧かず、味のしないガムを延々と噛んでいるような虚無感に襲われる。
ああ……友達を、殺してしまう。
――どれだけの時間が経ったのだろう。
ふと気づくと、冬花の動きは止まっていた。
恐る恐る彼女の顔を覗き込むと、冬花は苦しそうな表情を浮かべたまま、息絶えていた。
「冬花、ちゃん」
体をつついても、彼女の体は人形のように重たくなっていて、ぴくりともしない。その瞳には涙が滲み、頬を伝っている。
殺した……。
僕が? 僕がやったのか?
とんでもないことをしてしまった。
「うわあ!」
情けない悲鳴をあげ、僕は彼女の体から飛び退く。これは現実か? 悪い夢を見ているんじゃないか?
自分が恐ろしくてたまらない。自然と涙がぼろぼろと溢れてくる。冬花の亡骸にすがりつき、「許して」と泣いた。そんな自分が滑稽で、さらに涙が滲む。
「北村さんが悪いんじゃないですよ。やらなきゃ、やられていたんです。仕方ないです」
一部始終を見ていたというのに、ヨルの声は明るい。まるで、コメディドラマでも見終わった子供のようだった。
それがあまりにも憎たらしくて、僕は冬花を抱きしめたままヨルを睨みつける。
「面白かったですよ、北村さん」
「……悪魔なんかと契約をした僕が間違ってた」
「親友を二人作っておくべきでしたね。だから、色んな人と遊びに行ったら? と言ったのに」
「どうせ、十日がすぎれば他人に戻る魔法のくせに」
「それは北村さんの努力不足です」
「なんだと」
ヨルはぴょんとベッドから降り立ち、動かない冬花を見つめる。彼女の頬を愛おしそうに手で優しく撫でると、
「北村さんにとって、友達ってなんですか?」
「えっ?」
唐突な問いかけに、言葉が詰まる。
僕にとっての友達?
なんだ? 僕は、友達に何を求めていたんだ?
「夢を見過ぎなんですよ、北村さんは」
「……夢?」
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