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「うふふ。十日間ありがとうございました。北村さんがどうであれ、ヨルは楽しかったです」
「うるさい。僕は、お前のことなんか大嫌いだ」
「そうですか。残念です。でも、ヨルと北村さんは、冬花さんを殺した悪友ですね」
僕は目を見開く。
「さようなら、北村さん」
その言葉とともに、ヨルは僕の目の前から姿を消した。同時に、抱きしめていたはずの冬花の亡骸も煙のように消えてしまった。
無機質な病室に、僕は一人取り残された。
得体のしれない悔しさと、腹立たしさ。記憶の中の冬花への愛情がまぜこぜになって、心がズタズタに引き裂かれたようだった。
「ああああああ」
叫び声をあげ、無茶苦茶に壁を殴る。
頭の中がぐちゃぐちゃだ。とんでもないことをした。ああ!
やがて、騒ぎを聞きつけた看護師がやってくると、
「北村さん、うるさいですよ!」
そう言って、僕を厳しく叱咤した。
そこには親しみはない。すべてが僕にとっての他人になっていた。
僕は冬花のショルダーバッグを引き寄せる。
祈る気持ちで中を見ると……そこには、酒と僕への見舞いの品だとわかる果物が入っていた。
――ナイフは、このため?
これほど虚しいのに、記憶の中の冬花は、僕を愛おしそうに見つめるのだった。
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