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二十年ぶりの再会
「山本くん、久しぶり! 私のこと覚えてる!?」
居酒屋の店先に立った。そんな時だった。振り向くと、美しい女性がいた。
上から下へ、厭らしさは伝わらぬよう視線を這わせる。
整った顔立ちに魅惑的な体つき。飾り気のないセミロングとお堅いスーツ、地味な黒のビジネスバッグが却って美しさを引き立てていた――じゃなくて、誰だっけ?
「えーっと……」
「小学生の時、同じ学校だった森川香奈だよー! まさか忘れちゃった?」
詳しく自己紹介されたが、どうしても過去には戻れなかった。しかし、忘れたなどと言って印象を悪くしたくない。防衛本能が働いた結果、自然と見栄を装備していた。
「森川さんか! 美人になってて一瞬分からなかったよ! えっと、小学生だから二十年ぶりくらい?」
「そうだね。四年生の時だから、ちょうど二十年……って、もう! 上手いこと言って! て言うか前は呼び捨てだったじゃん。どうしたの?」
「あー、ほら森川さんも大人になったし、距離感忘れちゃって」
転がる表情を頼りに、記憶の探索を続けるが見つからない。よくある名字じゃなければ、判明も早かったかもしれないのに。
こんな美人を忘れるなんて、僕の頭はどうかしている。いや、顔つきは変わるもんだけど。
「あ、今から飲むところだった?」
問われて目的を思い出す。漂いだした、別れの気配に抗いたくなった。
「……よかったら森川さんも飲む?」
「……いいの!?」
森川さんは、少し驚いてから輝きを全面に宿す。喜と楽の中に、見え隠れする感情が可愛かった。
うちの妻も、このくらい可愛ければ良かったのに――と家庭を思いだし、二人きりを一瞬躊躇う。しかし、時々ならいいよね、と躊躇を即捨てた。
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