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思い出は苦く
ただ、“苛めていた”というのは、今思い返せばの話だ。突き飛ばしたり、髪を引っ張ったり、叩いたり殴ったり、大人になった今だからこそ、それらは苛めだと認識できる。
しかし、あの頃は僕も子どもだった。
「……えっと、あの時は本当にごめん」
身を起こし、形として頭を下げる。
「忘れてたくせに。私はずっと覚えてたよ」
伏せがちな瞳は温度を失っていた。憎しみの刺を突き付けられ、反射的に言い訳を探す。
「で、でも、ほら、僕も子どもだったしさ、ただの戯れだったんだよ」
罪悪感がないことはない。酷いことをしたとも分かる。けれど、未発達の人間がしたことじゃないかと思ってしまう。
「そうだよね、分かってる、子供の時のことだもん。仕方ないよね……分かってるよ」
森川さんの目蓋が、ゆっくり持ち上がった。電光の煌めきが、目の中に再び戻る。許しへと傾く葛藤に、内心安堵してしまった。
「なんて言うと思ってる?」
「えっ……」
すぐに、恐怖へと刷り変わったけど。
枕の下から、スタンガンが取り出される。知らぬ間に用意していたようだ。
電光を見ただけで、体が行動を拒む。逃亡と言う選択肢を導き出す前に、電流が肩へと当てられた。
呻きが漏れだし、背中からベッドへ落ちる。一旦離れたスタンガンが、僕を追いかけるよう突きつけられた。
筋肉が急速に縮み、全身に激痛を与える。痛覚以外の時間が、停止した錯覚に陥った。汗が滴る。
助けてくれ、何度だって謝るから!
――スタンガンが離れた瞬間、重力が何倍にもなった。
「……ご、ごめん。ほほ本当にごめん……おこ、お、怒ってるなら……謝るっから!」
痙攣する喉で、必死に言葉を繋ぐ。色気に満ちる姿を見ても、もう欲情は感じなかった。
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