思い出は苦く

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 森川さんは反応せず、シーツを捲って僕の全身を曝す。それから、ビジネスバッグをベッドに上げ、徐にスマートフォンを取り出した。  連写のシャッターオンが響く。向けられた画面には、いかにも事後の僕がいた。 「これ、奥さんや子供が見たらどう思うかなぁ。社長さんとか近所の人とかもいいよね。あとは……」 「ご、ご、ごめん! ほほ本当にごめん! わるっ、悪気は、なかっ……たんだよ!」  バッグがひっくり返される。落下した品々へ、視線が吸い寄せられる。見えたのは薬剤や工具、何に使うのか分からない道具なんかもあった。  麻痺の緩みを察したのか、念押しのスタンガンが浴びせられる。 「私もね、悩んで悩んで何度も許そうと思った。でも、出来なかった。だから今日、会いに来たの。二十年の間、後悔してたら許そうって決めてね。でも、してなかった。私はあの一ヶ月で人生めちゃくちゃになったのに。だから、山本くんの人生もめちゃくちゃにする……」  最初から試されていたと、やっと気付いた。偶然会う振りをして、計画に巻き込まれたのだと。 「で、でも、だ、だだ誰か来たら、ももも森川さんだって……!」 「大丈夫、誰も来ないよ。どんなに叫んでも、喘いでもね。それに安心して。殺しはしないから」  告げられて察する。そうだ、ここはラブホテルだった。誰にも邪魔できない、二人だけの楽園だった――。  森川さんの手に、手錠が握られた。未来が読めない。酔い止めか恐怖か、酒はすっかり抜けていた。 「ラブホテルで他の女と寝たって、ばらされたくなかったら、これからすること黙っててね」  僕は絶対に、彼女との出来事を忘れないだろう。今日のことも、蘇った過去のことも。 「そうやって一生苦しんで」  声をかけてきた時と、同じ顔がそこにはあった。
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