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side桜餅 初恋の人
「見るか?下都賀……」
「いや、いいよ」
「遠慮すんなって、桜木。好きだったんだろ?下都賀の事」
好きだからって、下都賀が情事をしている所を見たいなんて思わない。
初恋は、初恋で綺麗なままで居てくれたらいいんだ。
「あった、あった。ちょっと待ってな」
蔵前は、Blu-rayを入れ替えて再生する。
「下都賀かれんは、美奈子と飲み屋で知り合ったんだよ。妊娠したけど流産して旦那と別れたらしい。スナックで働いてたんだってさ」
Blu-rayは、下都賀かれんが男と再会して話をしている映像を映している。
「何かAVみたいじゃない?撮り方が……わかる?」
俺は、小さく頷いた。
確かに、小型カメラで撮影しているように見える。
「セカンドパートナーの契約をしなかったんだってね」
「うん。だって、何か大変そうだと思ったから……。ねぇ?何で撮ってるの?」
「だって、今日から私は君の飼い主だから……」
下都賀の顔が一気に強ばるのがわかった。
「蔵前、Win-Winだって言ってなかったか?」
「あぁ。下都賀はね、契約書をちゃんと読んでなかったからね」
「契約書……?」
「女性はね。お金がかからないけど参加にあたっての契約を交わすんだよ。それをよく読まないでサインしちゃうやつがいてね。それが、下都賀だった」
「それって、いつ契約するんだよ」
「えっ?俺がするわけじゃないから確かな事は言えないけど……」
蔵前は、少し考えている。
もしも、凛々子さんが契約を交わしたら……。
「やめて……。私、そんなつもりじゃない」
Blu-rayの中の下都賀かれんが叫ぶ声がする。
画面を見るといつの間にか二人は、ホテルにいた。
「それは、契約違反だろ?私は、君に400万払ったんだからね。だから、君は素直に従わなくちゃ」
「いやーー。来ないで、離して」
下都賀は、嫌がって暴れている。
「蔵前……!!女性が交わす契約書を俺は見れるのか?」
「見れるわけないだろ?俺は、持ってないんだから」
「ふざけんな!すぐに出せよ」
「おいおい!桜木。何で、そんなに必死なんだ?もしかして、さっき見せた写真の中に知り合いがいたとか?」
「いないよ。ただ……。見たいだけだよ」
「下都賀を救えなかったからか?」
蔵前の言葉に俺は、画面を見つめる。
画面の中の下都賀は、涙目でこちらを見ていた。
叫んでも、泣いても誰も助けてくれない。
紳士のように感じていた声の主は、鞭のようなものを握りしめていた。
「下都賀は、可哀想だよね。鞭で叩く男に気に入られちゃったからね。ハッハハハ」
画面を見ながら、蔵前は嬉しそうに笑い出す。
……狂ってる。
同級生がこんなに嫌がっているのに、泣いているのに……。
「桜木は、下都賀を救えないよ。もう、下都賀はこっち側に落ちたから」
「下都賀は、まだこの人と繋がってるのか?」
「彼じゃないよ。先月から、新しい人と一緒になった。下都賀はね。面がいいから……。だから、500万払ってもらえたよ。だけど、今回の奴は相当だよ。こないだBlu-rayを送ってきたんだけどさ。比べ物にならないぐらい痛め付けられてた。ハハハハハハ。見る?」
「見ない……」
「残念だな」
蔵前は、Blu-rayを一時停止する。
その画面には、裸の下都賀が映っている。
顔中ぐしゃぐしゃにして泣いていた。
凛々子さんの未来がこれなのだとしたら最悪だ。
「簡単に説明すると、参加料10万。セカンドパートナー契約終了後、20万。一ヶ月に一回は、経過の報告。三ヶ月後に再び俺と美奈子に会い、ちゃんとセカンドパートナーを続けているかを審査する。もし、続けているなら、また三ヶ月後。続けていなければ、金持ちに売る為に二回目の集いに参加。あっ、後。このルールちゃんと読まない人が多いんだけどさ。初参加じゃない男を選んだらすぐに売る」
「そんなの話せばわかる事だろ?」
「参加回数を言った時点で終了。聞いた方も聞かれた方も売る事が決まってる」
「決まってるってどういう意味だよ。これは、お前が作ったシステムだろ?書き換えればいいだけだろ」
「俺は、前の人から引き継いだだけだ。セカンドパートナーの集まりでカップルになれた人からランダムで後継者が選ばれた。それが、俺だったってわけ。だから、ルールは最初から決まってる。古くから利用してる人もいるから書き換えられない」
蔵前は、申し訳なさそうに眉を寄せる。
ふざけている。
こんなのおかしいだろう。
「参加するって決めたら最後。このシステムからは逃れられない」
「その事を参加契約書には?」
「女性側には、ちゃんと書いてるよ。だから、俺達が逮捕されてないんだよ」
だったら、尚更。
凛々子さんに、参加させるわけにいかない。
「その参加はいつするんだ?」
「さあね。明日は当日だからね。するなら、昨日か今日だろうね」
昨日……。
昨日だったら、遅い。
「ちょっと、俺。会社に戻るわ」
「そう。あっ、そうだ。下都賀に会いに行けばどうだ?」
「どうして……」
「あんなに怒るぐらいなんだから、まだ忘れてないんだろ?」
蔵前は、紙にさらさらと何かを書いた。
「桜木の会社の近くのマンションに住んでるよ」
どうやら俺は、蔵前に勘違いされたようだ。
「あっ、ありがとう」
俺は、スーツのポケットにその紙を入れる。
今は、凛々子さんの契約を阻止するのが先だ。
「満月チョコレート、置いてやるよ」
「ありがとう」
「明日の10時にここに来てくれよ。お金は、契約の時でもいいよ。だから、30万は用意しててくれよ」
「わかった。明日、必ず持ってくるよ」
「ああ、よろしくな」
俺は、蔵前に紙袋を渡す。
「約束だからな。Win-Win」
蔵前は、笑いながら紙袋の中身を見ていた。
悪い奴なのかそうじゃないのか、昔からよくわからなくて苦手だ。
あっ君には、めちゃくちゃ悪い奴だったのに……。
俺には、優しく話しかけてきたり。
「気をつけて帰れよ」
「ありがとう、じゃあな」
俺は、蔵前が理解出来ない。
だって、この店は女性を売ったお金で維持されてるって事だろ?
入り口のカーテンを開き、鍵を開けて外に出た。
よく、平気な顔していられるよ。
俺は、スマホを取り出す。
「最悪だ……」
凛々子さんの電話番号もメッセージアプリも聞かなかったのを忘れていた。
メールだけで、何が出来るんだよ。
凛々子さんからのメールはない。
それでも、
【セカンドパートナーの会に行くのはやめてください】
【参加する為の契約書にサインはしないで】
などとメールを送る。
既読になったかもわからない。
めちゃくちゃ不便じゃないかよ。
俺は、さざ波商店街の端まで走る。
ちょうどおばあさんがタクシーでやって来て降りていた。
「すみません。乗っていいですか?」
「あぁ、はいはい。どうぞ、どうぞ」
おばあさんが降りてくれて、俺は変わりにタクシーに乗り込んだ。
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