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side桜餅 桜餅の由来
あれは、26年前ーー
当時14歳だった俺は、野球部の玉拾いを相変わらず手伝っていた。
「お疲れ様でした」
玉拾いが終わり、帰ろうとした所にやってきたのは山村麗奈だった。
100キロ近い巨漢とそばかすだらけの顔。
「麗奈、言いなよーー」
「ほら、頑張んなきゃ……」
茶化すように山村の背中を押す女子達……。
山村といると自分が可愛くて痩せて見えるんだろうな。
女ってこわっ……。
「何かな?」
「あ、あの。私、桜木君が好きです。もし良ければ、付き合って欲しい?」
「ごめん。気持ちは嬉しいんだけど……。俺、好きな人いるんだ」
「そ、そうだよね。じゃあ、せめてこれを……」
何故か俺は、山村に大きな餅の塊を渡された。
「えっ?何で、餅……?」
「昨日、お爺ちゃんとついた餅」
「いや、そうじゃなくて……」
「お正月用の鏡餅だよ。振られるなら、せめて桜木君にこれを食べて貰いたい」
山村の言葉の意味が全く理解出来なくて、俺はただただ困惑していた。
ビニール袋に入ったデカイ餅を見つめる。
餅に罪はない。
「食べるのは、わかったけど……。理由を聞きたくて。何で、餅?」
「もうすぐ、お正月だから。冬休みになると会えなくなるから。だから……」
「えっ!!ちょっと待って……」
山村は、女子達と一緒に走り出してしまった。
俺の手の中には、30Lぐらいのゴミ袋に入れられた餅。
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「おもっ!!」
1人で食いきれる自信がない。
「あれ、桜木。まだ、帰ってなかったの?」
「花岡先輩。お疲れ様です」
「って、何持ってんの?」
「あっ!先輩、餅いります?さっき、同級生にプレゼントされちゃったんすけど……。さすがに、食いきれる自信がなくて」
「同級生に餅?プレゼントされた?どんなんだよ」
「ですよねーー。つうか、先輩。要らないですよね?」
「いや、食うよ。こう見えて、俺、結構餅好きなんだよ。貰っていいか?」
「は、はい。もちろんです」
「ありがとな!桜餅」
「さくらもち……??」
意味がわからなくて、俺は先輩を見つめていた。
「ごめん、ごめん。桜木が餅持ってるから、桜餅。俺、適当にあだ名つけちゃうんだよな。最悪だった?」
「い、いえ。全然」
むしろ嬉しかった。
まーやん先輩やアルマジロ先輩やくりぬき君などと呼ばれている野球部のメンバー達のあだ名は、花岡先輩がつけたものだ。
俺も、いつかあだ名をつけてもらいたかった。
そのあだ名は、花岡先輩と仲良くなった証みたいに思えたから……。
「じゃあ、桜餅。一緒に帰るか?餅、家の前でもらいたいしな。さすがに、裸は汚いだろ?」
「ですね」
初めて、花岡先輩と一緒に帰る。
俺は、隣に並べる事が嬉しかった。
女子達の憧れの人。
同級生男子の憧れの人。
そんな人と並んで歩けるなんて。
「桜餅は、野球部入らないの?」
「残念ながら、運動全般苦手なんですよ」
「じゃあ、何で玉拾いきてんの?」
「あっ、あれは……。担任の江藤に言われたんです。運動苦手でも玉拾いぐらいできるだろって」
「もしかして、桜餅って体育もサボってる?」
「はい。女子にバレたくなくて。走り方キモいですから、俺」
「じゃあ、走ってみるか?」
「いや、いやいや。無理ですって」
「よーーい、ドン」
花岡先輩に言われて走り出す。
俺の走り方は、まるで女がキャッキャッとはしゃいでるみたいだ。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「確かに、桜餅の走り方だせーーな」
「そんな、ハッキリ言わなくても」
「イケメンなのに走り方残念だな。手を横に振るのがよくないんじゃないか?」
「無理なんですよ。何度直しても直らないんです」
「じゃあ、走るのはやめとけ。桜餅、モテなくなる」
先輩は、ニコニコ話す。
息が上がってる俺とは違って、先輩は息切れすらおこしていない。
運動部は、やっぱり凄い。
「俺んち、そこだから。袋とってくる」
「はい、わかりました」
目の前には、赤い屋根の戸建てが立っていた。
ボロボロのアパート暮らしの俺とは大違いだ。
誰からも愛されてるぐらいだから、先輩はきっと素敵な家族と暮らしてるんだろうな。
「桜餅、これに入れてくれるか?」
「はい。素敵な家ですね」
「あーー、ここな。祖父母んちなんだわ」
「えっ?ご両親は……?」
「親父が死んで、お袋が病気で入院してるから。ここにいる」
こんな大事な事をサラッと話すなんて……。
俺は、うまく言葉を掛けられずに俯いた。
「重く考え過ぎだって桜餅。俺は、別に寂しいとかないんだって。人とは違うだけで。じいちゃんとばあちゃんいるし……」
「そうですか……」
「もっと酷い境遇のやつなんて、五万といるだろ。だから、俺は幸せだって……。お!ありがとな、桜餅。またな」
先輩は、笑いながら餅を受け取って家に帰って行った。
それから、俺は花岡先輩をもっともっと好きになったんだ。
なのに……。
なのに……。
「フフフフ。優ちゃんらしいわね」
凛々子さんの声に、俺は顔をあげる。
「凛々子さんも、あだ名つけられたんですか?」
「うん。つけられたよーー。りりまる」
「りりまる……?」
「うん。付き合ってすぐに丸子と丸男のラブレターってアニメが流行っててね。私、それにすごくハマってて。それで、りりまる。単純でしょ?」
「確かに……。単純だね」
俺は、凛々子さんに笑いかける。
やっぱり、好きだ。
凛々子さんの息づかいや笑い声。
表情豊かにクルクルと回る黒目。
可愛くて、可愛くて……。
抱き締めたくなる。
いったい、凛々子さんはどんなキスをするのだろうか?
いったい、凛々子さんはどんな声で……って変態じゃねーーか。
こんなんは、友達って言わない。
駄目だ。
駄目だ。
こんな感情は、捨てなきゃ。
捨てなきゃ……。
「お待たせしました。ホットコーヒーと……」
店員さんのお陰で、俺の感情は少し書き消される。
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