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更に翌日。
麗の教室に行くとこの日も麗は休んでいた。恵美は気になり
(麗大丈夫? 何かあった?)
とすぐにメッセージを送る事にした。しかし返信が来る事はなく、寧ろ昨日送ったメッセージも既読にすらなっていなかった。恵美は胸騒ぎが止まらず、学校が終わればすぐに麗の家を訪ねようと心に決めた。
その日の帰りのホームルームが始まり恵美は逸る気持ちを必死で抑えていた。ホームルームも終わりが近付き、恵美が少しでも早くと思いカバンに荷物を詰め込みながら帰り支度を始めた時、担任の先生は神妙な顔つきになり落ち着いた口調で語り出した。
「えぇ、皆さん、ご存知の人も多いとは思いますが我がクラスの葛城藍さんが一週間前から行方不明となっております。更に二組の林原麗さんも二日前の夕方から行方がわからなくなっているそうです。不審者の情報等はありませんが皆さんくれぐれも注意して下さい」
恵美は先生の話を聞いて崩れ落ちそうになった。先生の話の通りなら麗は恵美と別れた後から行方がわからなくなっている事になる。
『一体何故? 麗に何があったの? あの時麗が言っていた寄る所って何処?』
恵美が困惑の表情を浮かべて呆けていると、いつの間にかホームルームは終わり、クラスメイトの何人かは既に席を立っていた。恵美は慌てて立ち上がり、帰り支度を急いでいた一人のクラスメイトの横に立つ。
「ねぇ、貴女藍と仲良かったよね? 少しだけ話せない?」
相手は藍と団地について話していた麻莉だ。あまり話した事のない恵美が突然話しかけた為、麻莉は戸惑いの表情を見せていたが渋々といった感じで応じる素振りを見せた。
クラスメイト達が何人も行き交う教室で話せる事でもないと、二人は学校の中庭にあるベンチへと場所を移す。
「ごめんね急に」
「いいわよ別に」
短く謝罪の言葉を口にしたが麻莉は愛想なく微笑む。その笑みは少し冷たさを感じ、恵美に対して明らかに警戒感を示していた。恵美は麻莉の警戒感など気にせずに質問を浴びせる。
「ああ、ごめんね。煩わしい前置きは無しにして単刀直入に聞きたいんだけど、藍はあの団地に行ったの? あの団地の知ってる事は全部話してくれない?」
恵美の直球な質問に麻莉は驚いたような表情を見せた。だがすぐに真顔になり周りに視線をやった後、恵美に近付き小声で話し掛ける。
「こんな所で話したくないから場所を変えて。駅前の喫茶店に行きましょう」
伏せ目がちに言う麻莉を見て、恵美は静かに頷き二人でその場を後にした。
学校を出て喫茶店に向かって恵美が歩いていると麻莉が少し離れた後ろからついて来る。普段麗が横で笑いながらついて来るのを思い出し、少し胸が締め付けられていた。
「奥の席に行きましょうか」
喫茶店に着くと麻莉の方からそう言ってきた。確かにオカルト話をするのにあまり人には聞かれたくないと思い、恵美も素直に従う。
席に着き、ドリンクを注文すると二人の間に重い沈黙の時間が訪れる。恵美はテーブルに肘をつき自らの手に顎を乗せると、麻莉は腕組みをしたまま俯き、目を閉じて考え込んでいるようだった。
そのまま暫く沈黙が続き『私は一体何をしてるんだ?』恵美がそんな事を考えていた時、麻莉が突然話し出した。
「来栖さんが何を思って私から何が聞きたいのかわからないけど私が知ってる事は話すわ。まず藍はたぶん例の団地に行ったんだと思う」
「思うって何? 貴女達二人でよくあの団地に行くだの、希ちゃんがどうだの話してたじゃない。藍は確かめに行ったんじゃないの?」
「そんな捲し立てないでくれる? あの子が例の団地に行きたがってたのは事実だけど正直私はあまり乗り気じゃなかったの。だから先送りにしてたんだけど、あの子はたぶん我慢出来ずに先週末に行ったんじゃないかな。前までもそういう所あったし」
落ち着いた様子で麻莉は話してくれた。恵美は自分の態度を反省して麻莉の言葉に耳を傾ける。どうやらオカルトに熱心だったのは藍の方で麻莉はそれに付き合わされているようだった。
「じゃあ藍は先週末に恐らくあの団地に行ったんだ?」
「たぶんね。私がその日は行けないって言ったら『じゃあ私一人で偵察がてら行こうかな』って言ってたし」
話を聞いて恵美が考え込んでいると、麻莉が上目遣いで覗き込んでいた。その視線に気付いた恵美は少し微笑んだ後、テーブルにあったアイスティーに手を伸ばす。
「来栖さんもあの団地の噂信じてる訳?」
突然の質問に恵美は天井を少し見つめて考える。あの団地で希ちゃんの霊が出るなんて信じたくないし考えたくもない。だが藍があの団地に行った後に行方不明になったのならあの団地に何か手がかりがあるかもしれない。今はひとまずあの団地の情報が欲しい。
「私はオカルトには興味ないわ。ただ友達の麗もあの団地に興味を持ってたから何かあるのかなって思っただけよ」
「そっか確かに林原さんとは仲良さげだったもんね。あとあの団地についてだったよね? 私が知ってるのはあくまで噂レベルの話だからね」
麻莉が少し前のめりになって問いかけてきたので恵美は静かに頷く。
「まずあの団地が廃墟になったのはもう何十年も前の話で、ある時期に住民の人達が一斉に出て行ったのが原因らしいの。あの団地には当時様々な人達が住んでいて、その中には若い夫婦の人もいたの。若い夫婦の間には生まれたばかりの赤ちゃんもいて幸せに暮らしていたみたいなんだけどね、色んな人が住む集合団地でしょ。やっぱり中には変な人もいたみたいなの」
時折確認するかのように見てくる麻莉の話を、恵美は静かに聞いていた。
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