麗の行方

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麗の行方

――O市団地内  恵美と別れた麗は市内でお菓子やお線香を買ってO市内にある例の団地に来ていた。  恵美はこの団地には近付いてほしくないようではあったが、麗はあんな話を聞かされて自分にも何か出来る事はないかと思い、つい突発的に行動してしまったのだ。 「……ふぅ、さぁこれで恵美も少しは楽になれるといいな」  暗い団地の中でお供え物をし、線香をあげると一人呟きゆっくりと腰を上げる。振り返るとそこには先が見えない程暗く長い廊下が伸びていた。 「やっぱり勢いで来るもんじゃないよね。日を改めた方が良かったかな」 暗闇が大きく口を開けて待ってる様な廊下を見つめて、麗は微かに眉根を寄せて苦笑する。そんな中、その長く暗い廊下を一人歩いていると、この暗闇に飲み込まれるんじゃないかとさえ思えてきて、麗がいくらオカルト好きとはいえ、この雰囲気は流石にこたえていた。  そんな暗闇の中、早くその場を去ろうと足早に歩いていた時だった。[タッタッタッ]と軽快なリズムを刻むような物音が聞こえた様な気がした。 「な、何? き、気のせいよね?」  麗は足を止め、周りを見渡すが何も見当たらない。静寂が支配する暗闇の中で、麗は大きく息を吐くと少し足早に歩き出す。しかし再び物音が聞こえてくる。音は先程よりはっきりと聞こえ、まるで何かの足音の様な気さえする。そしてその足音は近付いてきている様に感じられた。 「……何? 動物? そうよね、きっと小動物かな?」  麗は恐怖心を振り払うようにあえて大きな独り言を呟く。静まり返った暗闇の中、麗の声だけが反響すると、再び静寂が訪れる。暗闇と静寂に恐怖をかき立てられた麗が一人足早に歩いて行く。だがどれ程歩いても長く暗い廊下が終わる事なく続いているだけで、来る時に登ってきた階段にはたどり着けなかった。 『おかしい、この廊下がこんなに長い筈がない』  既に麗の心拍数は上がり、呼吸は乱れていた。こんな一本道の廊下で迷う事なんかあるはずもなく、既に麗は混乱しつつあった。  言い知れない恐怖を感じながら、あるはずの階段を目指しひたすら歩いていた時だった。突然背後からただならぬ気配を感じた麗は足を止める。夜とはいえ、気温は高い筈なのに震えが止まらなかった。恐怖心を抑えながらゆっくりと振り返ると、そこで麗が目にしたのは――。 「ひっ……」 「あなたも私達の邪魔をするの?」    翌日。  昨日麗と話せた恵美の心は幾分か、軽やかになっていた。これは麗がしっかりと話を聞いてくれたおかげと思い、今日は一緒にお昼を食べようと恵美は麗のクラスに顔を出した。  しかし何処を見ても麗の姿は無く、不思議に思い近くにいた子に麗の事を尋ねる。 「あ、林原さんですか? 今日は確か林原さん見てないし休みじゃないかな?」 「そうなんだ、ありがとう」  教えてくれた子にお礼を言うと、すぐに自分の教室へと戻って行った。麗は普段から月に一度や二度、体調が悪いと言って休む時もあったので恵美も特に気に止める事もなく、 (今日は体調不良? ゆっくり休んでまた明日ね) そうアプリでメッセージを送り、放課後に少し寄り道をしながらその日は帰路に着いた。家に帰ると自室に籠りスマートフォンを見つめながらダラダラとした時間を過ごす。時折麗に送ったメッセージを確認するが返信はなく、既読になる事も無かった。  恵美は少し気になりながらも不安を振り払うように早めにベッドに入ると、不思議とすぐに眠りにつけた。だが恵美はこの夜、酷くうなされる事となる。 「……う~ん……はぁ、はぁ、嫌……」  荒廃した団地を恵美は必死に走って逃げていた。 「来ないで、お願い……もう許して」  恵美は走りながら振り返り呟いた。誰もいない暗い団地で膝に手をつき息を切らしていると後ろから足音が聞こえた。驚き咄嗟に振り返った時、恵美の目に飛び込んできたのはあの日のままの姿をした希ちゃんだった。 「……なんで恵美ちゃんだけ……」  希ちゃんは恨めしそうに恵美を見つめてそう呟くと、恐怖が頂点に達した恵美は悲鳴を上げてベッドの上で飛び起きた。全身水浴びでもしたかのように汗だくになり、激しい運動をした後のように息は乱れていた。 「恵美!? 叫び声聞こえたけど大丈夫?」  部屋の外から母親が心配そうに声を掛けてくる。 「あ、ごめんごめん、大丈夫だから」  恵美が平静を装い返すと母親は安心して帰って行った。ベッドの上で身体を起こして頭を抱える。 「何なのよ今になって。勘弁してよ、本当に」  恵美は絞り出すように呟いた。流石にこんな悪夢はこたえる。
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