22人が本棚に入れています
本棚に追加
……そして、アイリ高校卒業の日の前夜。
ディアは自室の机に座って目を閉じ、意識を集中させている。
ペンダントに加工された小さな赤い宝石を両手で握りしめて、強く念じる。
(……アイリ様)
心の中で愛する人の名を呼びながら、その手に魔力を集中させる。
ディアの両手から放出された魔力は、赤い宝石の中へと送り込まれ吸収されていく。
ディアが目を開けて両手を広げると、魔力で満ちた宝石は先ほどよりも輝きが増して見える。
魔界では婚約や結婚の際に、装飾品に魔力を込めて相手に贈る。
その時、ディアの部屋の扉がノックされる音が聞こえてきた。
ディアは急いでペンダントをケースに入れると、引き出しの中に隠した。
ゆっくりと席を立って歩き、扉を開けると、そこにいたのはパジャマ姿のアイリ。
「ねぇ、ディア……お願い。一緒に寝よう?」
アイリは上目遣いで恥ずかしそうにディアに『添い寝』を申し出る。
「高校生最後の思い出に……なんちゃって……」
ディアは少し驚いた顔をしたが、すぐに微笑んで頷く。
「はい。承知致しました」
ディアにとって、恋愛の封印解除は明日であり、少しのフライングではある。
しかしアイリは、ディアの恋愛の封印解除の日を知らない。
二人でベッドに入ると、アイリはディアに抱きついて密着する。
「あ、アイリ様……」
「ふふ。また魔力の結合が起きちゃうね」
封印解除の前日にディアの理性を破壊しにかかるアイリは、なんとドSなのだろうか。
アイリは幼く見えるが、母親に似てスタイルが良い。そんなに密着したら感触で伝わる。
だが真面目なディアは、なんとしてでも明日までは耐えなければならない。
「そのうち、魔力の結合で子供ができちゃったりして……きゃっ」
とんでもない発言をして、自分で恥ずかしがるアイリであった。
明日も、これからも毎日ずっと、ディアの温もりに包まれて眠りたい……
そんな願望が明日、本当に叶うとは、その時のアイリは夢にも思わなかった。
最初のコメントを投稿しよう!