第1話『アイリの魔法と、ディアの補習』

2/7
20人が本棚に入れています
本棚に追加
/39ページ
それでも脳内テンションの高いアイリとは逆に、ディアは深刻そうな表情で向かい合う。 「アイリ様がご卒業できますように、私もお手伝い致しますので、頑張りましょう」 このまま行けば卒業できずに留年という事もありえると、ディアは遠回しに伝えている。 だが、未だ目の前のディアをうっとり見つめるアイリの思考は…… (卒業できなければ、ずっとディアの授業を受けられるし……いいかも) 側近の心、王女知らず。魔王の娘が留年希望という、まさかのトンデモ思考であった。 そうはさせまいと必死で真面目なディアは、今日も気合いを入れて補習を開始する。 「それでは、今日は『氷』の魔法の復習を致します」 そう言って、ディアは小さなビーカーを片手で持ってアイリに見せた。 手の平に乗るサイズのビーカーには、水が半分くらい入っている。 「水の温度を低下させて、これを凍らせます」 ビーカーを持つディアの片手から、魔力の白いオーラが立ち上って見える。 すると、ディアの持つビーカーの水面の揺らめきが一瞬にして静止した。 まさに、時が『凍りついた』ように。 ディアがビーカーを逆さまにしてみせるが、完全に氷と化した水は落下せずにビーカーの中に留まっている。 これが、『氷』の魔法のお手本だ。 「それでは、アイリ様。同じようにやってみて下さい」 「うん、分かった……頑張るね」 アイリは自分の机の上に置いてある、水の入ったビーカーを両手で包む。 魔王の魔力を完璧に受け継いで生まれたアイリには、魔界最強とも言える魔力が備わっている。 だが、その力が強大すぎる故にコントロールが難しい。 この授業は、魔力を抑えてコントロールするための、基本中の基本。 言ってしまえば、魔界の中学生で習うレベル。 そこまで遡って復習しなければならないアイリの現状に、ディアは危機感をも抱いている。 「もっと力を抜いて、リラックスして大丈夫ですよ」 そう言って、アイリの机の前まで来て優しく微笑みかけてくるディア。 アイリは緊張が解けるどころか、溶けてフニャフニャになってしまう。 ディアの優しさは、逆効果。ディアに恋するアイリにとっては、あらゆる雑念を生んでしまう。 (うぅ……ディア、氷、カッコいい……力を抑えて、氷、こおり……) もはやディアに対する熱い恋心と、氷の魔法を念じる言葉が脳内でミックスされている。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!