ヒサシブリのバス

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 眠くてダルい朝。退屈な授業。くだらないことで笑い合える友達。何もかもが、「いつもと同じ」だと思っていた。  帰りのバスに乗るまでは――――。 「やあ、久しぶり」 「お久しぶりです」 「久しぶりっす!」  いったい何が起きたのか。いつもと同じバスに乗ったはずなのに、俺以外の乗客がみんな「久しぶり」と挨拶を交わしている。  何だ、これ。乗るバスを間違えたか?  いやいや、そんなはずない。窓の外を流れていく風景はいつもと同じだし、行き先を知らせる電光掲示板だっていつも通りだ。  違うのは、乗客が初めて見かける人たちだっていうこと。そして、なぜか俺以外が知り合い同士ということ。  きっと、この辺りで何かのイベントでもあるんだろう。そう思ってイヤホンを耳に入れ、音楽を聴こうとした時だった。 「あら、久しぶりね」 「久しぶりー」  再び聞こえてきた言葉に反応して、思わず乗車口を見た。  その言葉を発したのは、次の停留所で乗ってきた五十代くらいの女性と小学生くらいの男子だった。もともと乗っていた乗客たちに挨拶している。  それだけじゃない。更に次の停留所で乗ってきた老人も、その次に乗ってきたサラリーマンも、みんな「久しぶり」と挨拶をしている。運転手に「久しぶり」と声をかける人もいる。  何だコレ。よく見たら運転手も見たことない人だし、みんな俺なんて見えていないかのように「久しぶり」と再会を楽しんでいる。完全なアウェーの空間。 「な、なあ」  急に不安になった俺は、前の席に座っている同い年くらいの男子に声をかけた。 「このバス、何かのイベント専用のバス? 俺以外、全員知り合いみたいだけど」  ゆっくりと振り向いたそいつは、長い前髪の隙間から虚ろな目でじっと見つめてくる。俺が嫌いな、地味で暗いタイプの人間だ。 「な、何か言えよ」 「……君は、覚えていないの?」 「は?」  虚ろな目はしばらく俺を見つめた後、また前を向いて黙り込んだ。
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