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「じゃあ、送ってくれてありがとう」
駅まで送ってくれた父の車から降りて、お礼を言った。
「今日は、ありがとうございました。おやすみなさい」
「・・・里美」
「はい」
「家に着いたら、連絡しなさい」
「え、なんで?」
「なんででもだ」
「・・・はい」
「気を付けて帰りなさい。寄り道するんじゃないぞ」
そうやっていつまでも子供扱いする父に、込み上げてくるため息を堪えた。ドアを閉めると、最後まで怖い顔をして、父の車は遠ざかっていった。
「・・・緊張した」
しー君がハハ、と笑う。
「せっかくの、初デートだったのに・・・」
唇を尖らせた私の頬を、しー君がそっと触った。
「・・・帰ろ」
「・・・うん」
並んで改札口ホームに向かって歩き出した。
「あのラーメン屋さん、お父さん行きつけだったんやな」
「休みの日はけっこう一人で出掛ける人なんだよね」
「もしかしたら、前にも会ったことあったりして」
「あのラーメン屋さん、よく行くの?」
「んー、大学の時は、よく行ってた。留学して、こっち帰ってきて、久しぶりに行ったら変わらず美味かったから、里美連れてったろー思って」
「なんか、嬉しいな」
「ん?」
「離れていても、寂しくない。離れていても、好きな人のことずっと考えていて、気持ちが育っていって、会えた時は、その想いが花開くって言うか喜びが何倍にもなる」
「なかなかポエマーやな」
「・・・本心なのに」
「・・・まあ、分かる気がする」
「ねえ、明日も、会えるかな?」
「あ、ごめん。明日は、ちょっと」
「・・・そっか」
「また、すぐ会えるよ」
「・・・そだね。明後日、仕事納めだし、お正月だって会えるんだし」
電車の中でバイバイした後、そんなつもりじゃなかったのに、自分が言ったことが半分嘘だということに気づいた。離れている間も、愛しい人のことを想うだけで気持ちが育っていくのは本当。けど、愛しい人が、視界からいなくなった瞬間から、寂しいと思ってしまう。
きっと、どんなに優しい顔で微笑んでくれても、どんなに優しく手を握ってくれても、きっと、私の方がしー君のことが好きだ。恋愛に不慣れなせいかな。今すぐ電車を降りて、彼の背中を追いかけたい。そんな馬鹿なことを、本気で考えてしまうくらい、しー君が私の心にいる。今すぐ会いたい。本当は明日も会いたい。毎日会っていたい。そばにいたい。そんな濁った感情をぶつけてしまいそうで、LINEは「おやすみ」しか送れなかった。
次の日。鏡に映った自分の姿に驚いた。毎日スキンケアは入念にしているのに、クマがすごくてなんだか全体的に浮腫んでいる。そりゃ、昨日、なかなか眠れなかったけど・・・。
両手で頬をぎゅっと押して、ハァ、とため息をつく。
スマホに届いた、しー君の「おはよう」のスタンプに、なるべく明るいスタンプで返信した。
今日は、何して過ごそうかな。しー君からもらった野菜、もう使い切るから買い出しにも行きたい。お米、まだあったっけ。
キッチンに向かいながら、昨日の母の言葉が頭に浮かんだ。
『もしもし、里美?どうしたの?』
「あ、うん。今年は御節、一緒に作ろうかなって思って」
母に電話をかけた。
『珍しい。けど、大丈夫よ。今年は頼もしい助っ人がいるから』
「助っ人?」
『あら?お父さんから聞いてない?』
「なにが?・・・あ、そうだ。お父さん、どうしてる?やっぱり、怒ってた?』
『あらヤダ、お父さんたら、何も言ってないのね・・・』
「え?お父さん、どうかしたの?」
『お父さんなら、いつもの皆さんと釣りに出掛けたわよ』
「え、この寒いのに?船で行くんでしょう?私には無理・・・」
『てっきり里美も一緒だと思ってた』
「ええ?」
『なのに、雫稀君だけ来るんだもの』
「・・・へ?え、なに、どういうこと?しー君?」
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