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「人間関係、ですかね」
「えー、気の合わない人がいたとか?」
「まあ、そんな感じです」
「えー、でもさ、そんなこと言ったらどこでもやっていけなくない?」
「・・・そうですね」
「ってかさ、人間関係って、体の良い言い訳じゃない?結局は仕事に飽きちゃった、とかだったんでしょ?」
「・・・」
「分かるなあ。私もここ入ったとき、コレじゃない感大きかったもん。でも、だんだん我慢してやってきたことが、今自分の身になってるって感じするんだよね。成長を実感できてる、っていうか」
「・・・素敵ですね」
「だから、辛いこととか嫌なことって、神様が与えてくれたギフトなんだって思うようにしてる。それを乗り越えれば、自分が成長できるってことじゃん。ホラ、有名な言葉であるでしょ?〝神様は乗り越えらない試練は与えない〟って」
「・・・はい」
「だから私、逃げるとか、嫌なんだよね。自分の成長のチャンス、自ら手離しちゃう感じがして」
「・・・」
おかしいな。
ここのカフェ・オレ、大好きなはずだったのに。
なんだか味がしない。
シロップ、少なかったかな・・・。
「浅見」
突然、聞き覚えのある声がした。
「あ、お疲れー」
声の方を向いた浅見さんが手を振ろうとした。
「声、デカい」
声の持ち主の「彼」はコーヒーのカップを片手に浅見さんを一瞥して、そのまま窓際の席へ歩いて行った。
「・・・同期」
「あ、そう、なんですか」
っていうことは、私とも同い年なのかな。
「あ、ヤバ。午後一ミーティングなんだ。ごめん、先行くね!お疲れ!」
「お疲れ様です」
ヒールの音をコツコツ立てながら慌ただしく去っていく浅見さん。
今の話、聞かれたかな・・・と思い、「彼」の方を見ると、ランチバッグからお弁当を出すのが見えた。また、手作り弁当かな、と思って眺めていたら、パチ、と目が合った。驚いて目を逸らしてしまった。
その日の夜。お風呂から出て髪の毛を乾かしていると、スマホの通知音が鳴った。井川君からだった。
『日曜日、空いてる?』
例の「みんなで集まろう」って話かな、と思った。
午前11時の駅前。待ち合わせ場所には、私と井川君しかいなかった。
「えっと、他には?」
「なんか、来れないみたい」
「え、喜代美ちゃんも?」
「いいじゃん。2人でも」
「・・・えっと・・・」
「水族館でいい?牧瀬、なんかペンギンっぽいし」
「え、そうなの?」
「行こ」
戸惑う私を他所に、井川君がスタスタと前を歩いて行ってしまった。
井川君の言う通り、ペンギンがたくさんいた。ペンギンっぽい、と言われて、どう反応すればいいのか分からない。
「ホラ、やっぱ牧瀬っぽい。言われない?似てるって」
「・・・うさぎには、似てるって言われたことはあるけど」
「それ、さりげなく〝私うさぎみたいに可愛いの〟アピール?」
「あ、そうじゃなくて、なんか、鼻のとことか」
「あ、見て。カワウソと握手できるって。ハハ、マジで若林っぽい!」
「・・・」
踵、痛いな。靴連れできてるだろうな。こんなに歩くと思わなかったからヒール履いてきちゃった。絆創膏は持ってるけど、ポーチの中だ。
「井川君」
「んー?」
「ちょっと、お手洗い行ってくるね」
「おお」
擦りむけた踵に絆創膏を貼って、スマホを見た。喜代美ちゃんからLINEがきていた。
『今何してる?今度2人でお茶しようよ』
『今、井川君と水族館来てる』
驚愕したスタンプが連続して送られてきた。そして、電話がかかってきた。
「・・・もしもし」
『ちょっと!間違えてかけちゃっただけなのになんで出るの!?』
「・・・あ、間違いなの?」
『デート中でしょ!相手に集中しなさい!ってかさ、いつのまに井川とそういう関係になってたわけ?』
「私も、分からない」
『へ!?』
「みんなで、集まろうなって言われて、日曜日空いてるか聞かれて、空いてるって返事したら・・・今日に、至ります」
『至ります、って・・・』
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