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「浅見さんみたいに、さっぱり、かっこ良い、美人な人の方が、しー君にお似合いなような気がして。さっき、変な事言ってごめんなさい」
「・・・かっこよくて、美人かは知らんけど、さっぱり、は分かるわ」
「しー君の隣、似合わないって言われる気がして。しー君が、恥ずかしい思いするんじゃないかって思って」
「・・・里美、俺のこと買いかぶり過ぎ。俺なんか、まだまだガキやし。今日やって、里美に嫌な思いさせてしまったし、そもそも俺、里美のことになると余裕なくなるわ。めっちゃダサ」
「そんなことない。しー君は、かっこいいよ。私には、もったいなさすぎる」
「え、返品不可やで?」
「返品なんかしない。しー君、好き。ずっと、一緒」
「うん」
「私、頑張る。しー君に似合う人間になれるように」
「・・・松坂がさ」
「え?」
松坂って、誰だっけ。・・・あ、同期会で目の前だったあの人か。
「里美のこと、全然ブレないって言ってた。マイペースかと思ったら、ちゃんと芯のある子やった、って。次の日の、酒抜けた状態で」
「・・・」
「あと、これは先に本人たちに確認しよう思ってたんやけど、山口達に、なんか言われたんやて?トイレで」
「山口・・・?」
「山口亜美。もしかして、会社に内緒ってそのことも関係してる?」
「・・・ああ、あれは、あの後、浅見さんがちゃんとフォローしてくれたから大丈夫。全部、私が自分に自身が持てないのが原因だから」
「里美の、そういう誰も悪く言わんとこ、すごいと思う。なんか俺、自分が恥ずかしくなったもん」
「え?」
「俺、何べん頭ん中で岸さん崖から突き落としたか分からん。岸だけに」
「・・・」
フフ、と笑う私を見て、しー君が安心したように微笑んでくれた。ああ、戻ってきてくれた、と思った。
「3人に囲まれたり、前の会社の、先輩?に絡まれたりして、怖いこといっぱいあったな。・・・隠し事せんで、とか、全部なんでも話して、言うんは違うと思うから、今は聞かんけど、言いたいこと我慢すんのだけは、やめてな?」
「・・・うん」
「俺も、ヨボヨボの爺さんになるまで、誰にも言えんことあるし」
「え?」
しー君が、少し寂しそうにフッと笑った。
「言えんって言うか、言いたくない。なんか、宝物、みたいな。うまく表現できんけど、ずっと、自分の中に持っときたい思い出」
「・・・そんな、しー君の思い出を、私も大切にしたいから、聞かない」
「・・・ん」
「なんか」
「ん?」
「今日、いろんなことがあって、疲れちゃった・・・」
「・・・せやな」
「来てくれて、家族って言われて、嬉しかった」
「恋人です、言うたらナメられそうやったし・・・別に違和感なかったやんな?」
「な?」
優しい目をしたしー君がフフっと笑ってくれた。
「全部、夢みたい。でも、夢じゃないんだよね。今度は、しー君と一緒にあのカフェ、行きたい」
「うん。絶対里美、気に入ると思うで。カフェオレも、めちゃ美味いから」
「今度、一緒にお料理しよう?私、オムライス得意なの。一緒に何か、作りたい」
「うん。何食べたいか、考えといてな」
「あとね、しー君と一緒に・・・」
「うん・・・」
一緒に行きたいところ、やりたいことが多すぎて、どれから言おうか迷っていたら、ふわ、と唇に柔らかいものが触れた。優しく髪を撫でられて、安心した私は、そのまま眠りについてしまった・・・。
次の日の朝。目が覚めてスマホを見たら、しー君から「おはよう」のスタンプが送られてきていた。夢じゃない現実に、受け止めきれない幸せに、胸がときめいた。
社内恋愛。自分には無縁の言葉だと思っていたから、どう立ち振る舞えば良いのか分からない。けど、いつも通りのメイクをして、いつも通りに服を選んで、いつも通りに自分の席に座る。ここからしー君のいるフロアは見えないし、わざわざ会いに行くのも変だし。でも、不思議と寂しさは無くて。
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