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一人じゃないと思える。肩の力がストン、と抜けた感じがする。気を付けていないと、昨日のことを思い出して顔がニヤけてしまうけれど。
カフェに向かって歩いてると、後ろから急に「うぃ!」と声をかけられた。
振り返ると、しー君がいた。
「お疲れ」
「お疲れ様」
「今から昼?」
「そう。し・・・翡翠さんも?」
「俺は今から外。岸さんのラーメン付き合わんと」
「あ、そうだった」
「聞いてや。俺、ラーメンは魚介豚骨がええです、言うたのに、味噌食え言うねん。岸さん、自分が塩と味噌両方食いたいけど、2杯はキツいから俺に頼ませて、特盛にして少しくれ、言うねん。せこいやろ?」
「・・・前から思ってたんだけど」
「ん?」
「岸さんて、しー君のこと、絶対好きだよね?」
「俺も、そう思うわ」
顔を顰めつつ、まんざらでもなさそうなしー君に、笑ってしまった。
「いいなぁ、ラーメン。私も、久しぶりに食べたくなっちゃった」
「初デート、ラーメンにする?」
「うん!!」
「オッケ。連れて行きたい店あるから」
「わあ、楽しみ!」
「・・・あのさ」
「ん?」
「・・・筋肉痛?」
「え、なんで分かるの?」
「歩き方、変やから」
「え、嘘!?」
「嘘」
「・・・もう!」
2人でクスクス笑いながらエレベーターまで歩いて、私は上の階。しー君は下のに向かった。(岸さんが1階で待っているらしい)
はじめてのクリスマスは、しー君は出張で、なんだかすごく謝られたけれど、なぜか私は謝られるのも嬉しくて。気にしないで、と言いながら、顔がニヤニヤしていた。26日の土曜日に会う約束をしてたから、用意していたクリスマスプレゼントを渡したときのしー君の顔を想像するだけで、幸せな気分になった。
朝。待ち合わせの場所に走って向かった。
「おはよう」
「おはよう、ごめんなさい、ちょっと遅れちゃった」
「ええて。俺も今来たとこやし」
「行こっか」
「今日、眼鏡なん?」
「あ、うん。コンタクトレンズ切らしちゃって。今日の夜、宅配ボックスの中に入ってるはず」
「眼鏡、ラーメンで曇らん?」
「食べるときは外すから大丈夫。裸眼じゃ車の運転はできないんだけど、日常生活にはそんなに支障ないし」
「そっか。・・・やっぱ、可愛いな、眼鏡」
「・・・ありがと」
「行こ」
当然のように繋いでくれる手が嬉しかった。
「これ、クリスマスプレゼント」
「え、マジ!?わー・・・ありがと」
目を真ん丸にして、想像していた顔で喜んでくれた。
「開けてもええ?」
「うん。気に入ってもらえると良いんだけど」
ラーメンが運ばれてくるまでの時間。テーブル席で開封するしー君。
「名刺入れ!・・・と、タイピン!」
「うん。もう持ってるとは思ったんだけど、予備があってもいいかなって」
「いや、年明けから使う。早くも今使ってるヤツ、へたってきてんねん。名刺入れも自分の顔やぞって、岸さんから言われてん。ありがとう!」
「良かった」
「じゃ、俺も、ハイ」
「え?」
「俺のは、プレゼントっていうか、お土産なんやけど」
バッグから小さな箱を取り出してくれた。
「あ、ネイルオイル!」
「うん、なんか、向こうの店員さんがすすめてくれたんやけど、里美っぽい香りやな思って」
「ああ、お店の中じゃなかったら、開けてた!私、指先乾燥するからたくさん使うね!ああ、でも使うのもったいないなあ・・・」
「なんで。ちゃんと使ってぇな。・・・クリスマスプレゼントは、今日この後一緒に選ぼうと思って」
「・・・ううん、いらない」
「え?」
「一番欲しいもの・・・ものじゃないけど、目の前にいるから」
「はい、それ却下」
「え、なんで?」
「それやと里美、一生俺からなんももらわれへんで?」
「・・・」
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