Treasure Chest

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電話口から、ため息が聞こえた。 『とにかく、一旦切るよ。今、どこなの?』 「トイレ」 『・・・全然、声が楽しそうじゃないんですけど』 「うん、楽しくない」 『ちょ、夜、説教させて。電話するから。まさかお持ち帰りなんてされるんじゃないよ』 「うん、ここでたら、すぐ帰る」 電話を切って、トイレから出ると、井川君が立っていた。 「遅いから、心配になって」 「ごめん、電話かかってきて」 「誰?」 「喜代美ちゃん」 「・・・っそ。・・・だいたい、見たよな。この後、どうする?」 「あ、帰ろうかなって」 「え!?なんで!?」 「なんでって・・・」 「つまんなかった?動物園とかの方が良かった?ごめん、ディズニーランドとかも考えたんだけど、システム変わってから俺、よく分かんなくてさ」 「つまらなくは、なかったよ。水族館、久しぶりだったし」 「だったら、なんで?何か用事?」 「・・・あ、うん」 「そっか・・・。じゃ、送っていくよ」 「え、いいよ。駅も近いし、大丈夫」 「そっか」 「じゃあ」 「牧瀬」 「ん?」 背を向けようとしたところを呼び止められたので、その場で一回転してしまった。井川君がクスクスと笑っていた。 「ホント、牧瀬って、そういうところだよな」 「・・・そういうところって?」 「なんでもない。・・・じゃ、今日のところは、これで釈放ってことで」 ・・・釈放? 「俺らさ、7,8年ぶりに会えたじゃん」 「そうだね」 「その間、いろいろお互いあったと思うけど、そういうの全部、埋めていこうな」 「・・・え?」 「また、連絡する」 そう言って背を向けた井川君は、手を振って去っていった。 『ごめん。キモすぎる』 「・・・」 夜。ご飯もお風呂も全部済ませて、喜代美ちゃんからの電話を待った。 9時ごろにかかってきた電話に、私は今日の出来事を打ち明けたところ、返ってきた第一声がそれだった。 『え?え?埋めていこうなって、何?死体?タイムカプセル?そもそも、なんで共同作業みたいなことになってんの?』 「分からない・・・」 『そもそも、水族館って、前売り券用意してたとか?』 「あ、そうみたい」 『・・・ぎゃふん』 「私、てっきりみんないると思ってたから、軽い気持ちで待ち合わせ場所行っちゃって」 『動物園とかディズニーとか、完全にデートコースじゃん・・・デート誘いたいときの常套句、ではないかもしれないけど、〝みんな〟って誰よって話よね・・・』 電話の向こうでため息が聞こえた。 『そもそもさ、里美は井川のこといいなとか思ってたの?』 「ううん。同級生としか思ってない」 『うん、声が全然楽しそうじゃなかったもん。そもそもさ、後ろ向きに手を振るって、現実で本当にやる人いるんだ?平成のドラマ観過ぎじゃない?井川、上に兄弟いたっけ?』 「さあ・・・」 『とにかくさ、里美にその気がこの先も起きないんだったら、もう2人で会わない方がいいよ。なんか向こう、期待してそうだし』 「うん、もう会わない」 『・・・里美?』 「ん?」 『なんか、あった?』 「え?」 『今日じゃなくてさ。うちら、この前会ったのって・・・あ、小野っちの結婚式以来だから、半年ぶりくらいだよね。・・・その間に、なんかあった?』 崩していた膝を折り曲げて抱えた。 「・・・どうして、そう思うの?」 『なんか、友達としての、勘。里美、もっと笑って、子供っぽくて、泣く子だったなって。今日のことも、焦って泣きそうになってるかと思ったのに、妙に落ち着いてるなって、変な感じしたからさ』 「私も、大人になったってことかな」 『だといいけど』 「・・・あ、もうこんな時間。そろそろ、切るね。心配してくれてありがと。もう、大丈夫だから」 『うん、おやすみ。あ、今度会おうよ。みんなで、じゃなくて、私と2人で』 「楽しみにしてる」
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