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「なんもないよ。ただ、会えてうれしいだけだよ」
「・・・」
心配そうに私を見つめる顔に、笑って見せた。
「・・・これ、渡したくて」
大きな紙袋だった。
「・・・開けていい?」
「うん。クリスマスプレゼント、結局この前買えんかったから」
中から、ふわふわのストールが出てきた。オフホワイトで、肌触りがなめらか。それをふわりと優しくしー君が私の首に巻いてくれた。
「うん、やっぱ里美、白似合う」
「・・・あったかい」
「やんなあ?なんか、繊維とか素材とかいろいろ説明されたけど、忘れた。で、こっちは、誕生日プレゼント」
小さな箱を渡された。この有名な緑色は・・・と、ドキっとする。
「ネックレスなんやけど、シンプルで合わせやすいの選んだ。来年は、一緒に選びに行こうな」
「・・・うん」
「・・・俺、音楽とかドラマとか、よう分からんのやけど」
「え?」
「大切な人を守る、とかよく出てくるやん?守るって、なにからかな、って思ったことあった。なんの敵なんかな、悪いヤツがおんのかな、守るって、具体的にどうすることなんかなって」
「・・・」
「・・・俺、前に意地張って、素直になれんで、大切な人と、自分から離れてしまったことあった。その後、自分で自分に、呪いみたいに〝俺から離れたんやから後悔するな〟って何度も何度も言い聞かせて、ほんまに、精神的にヤバいことになった。親父のこともそう。めちゃくちゃ憎んで恨んでたけど、それでもちゃんと毎日家に帰ってきてくれたことには、感謝しとったのになんも言えんまま、死なせてしまった」
「・・・うん」
「もう、同じこと繰り返したくない。好きな人には好きって言って、ありがとうとか、ごめんなさいとか、いっぱい、全部、言いあえる関係でいたい」
「・・・うん」
「また、泣いてる」
冷たい指が、私の涙をぬぐった。
「守る、とか烏滸がましいかもしれんけど、里美の笑った顔、たくさん見たい。いっぱい笑わせたい。里美が、楽しいとか、嬉しいとか、幸せーとか、そう思う理由の1つに、なりたい」
「・・・どうやって、笑わせてくれるの?」
「ん?シンプルに、変顔とか」
「変顔?」
「レベル1から99まであるけど、どれがええ?」
「・・・29」
「29!?・・・待って、どんなんやったかな・・・」
真剣に思い出そうとしているしー君を見て、吹き出してしまった。そんな私を見て、しー君も安心したように優しく微笑んでくれた。
さっきまで岸さんと一緒だったらしい。
「ほんっまに分からん!なんで俺が岸さんの奥さんへのプレゼント一緒に選ばなあかんねん!なんかバッグにつける、モフモフついたジャラジャラしたやつー言うて」
「バッグチャーム?」
「そう、それ!何色がええかなー言われて、無難にベージュとかがええんやないですかー言うたら『個性がない』とか言われてん!あとな、他に何かつけたった方がええかな?遠回しにほんまはバッグ買ってくれ言われてんかな?言うねん!知らんっちゅーねん!本人に聞けや」
プンプンしながら怒るしー君を見て笑ってしまう。
ぎゅっと握りあった手は、しー君のコートのポケットの中にすっぽりと入った。そのままゆっくり、駅に向かって歩き始めた。
次の日。朝起きてスマホをチェックすると、しー君から「おはよう」のスタンプが送られてきていた。付き合い始めてから、毎日必ず「おはよう」と「おやすみ」のLINEをくれる。今日はしー君、何してるのかな。大晦日は一緒に実家に泊まるとして、冬物セールとか一緒に見に行きたいし、夜景のキレイな場所でデートも良いなあ・・・。
〝今なにしてるの?〟というLINEを送ったのに、返事がなかなか来なかった。・・・嫌な予感がした。
実家に帰り、母とお昼ご飯を済ませ、早めの大掃除をしていると、思った通り、大きな紙袋を抱えて父が帰ってきた。
「おう、帰ってたのか」
「・・・しー君は?」
じとーっと見つめる私に悪びれもなく、父が後ろを指さす。
「あ!里美、ただいま!お、ネックレスよう似合ってる」
同じく大荷物でしー君も帰ってきた。
「どこ行ってたの・・・」
「お父さんとな、買い物行っててん。これでいつでも一緒に釣りと山登り行けるねん!」
「あらヤダ、だからそんなに大荷物なの?お父さんたら、しー君持って帰るの大変じゃない」
「今日はどうせ泊まって行くんだろ?明日車で送って行く。問題ないだろ」
「・・・あらあら」
母が嬉しそうに私を見て笑っている。
「グローブとライフジャケットはな、お父さんとお揃いにしたねん。長靴は色違いにして、ジャケットはお父さんと同じブランドのにした!」
子供みたいにはしゃぐしー君。
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