Treasure Chest

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「・・・タグ、切ってあげる。説明書の部分は、まとめておくから後で読んでね。ケアの仕方とか、載ってるやつ」 「うん!ありがとう!あ、マウンテンパーカーはな、お父さんが昔着てたのくれるねんて!あと、リュックも!」 「あらら・・・」 さっきから、笑いが止まらない母。 「型は古いが、悪くないヤツだ。おい、2階だ。取りに来い、雫稀」 「・・・え?」 さっきまではしゃいでいたしー君が、ふと真顔になった。 「・・・お父さん?」 「・・・今」 「・・・なんだ。息子を苗字で呼ぶ奴があるか」 「・・・」 「・・・おい、早く来い」 「・・・はい」 小走りで2階に上がっていくしー君。 上の階から 「おい、そっち押さえてろ。いいか、降ろすぞ・・・何、泣いてんだお前!」 と、聞こえてくる父の怒鳴り声に、私も少し、泣きそうになった。 片付けも掃除も終わって、4人でお夕飯を食べているときだった。 父が口を開いた。 「大晦日、またいつもの連中と初日の出拝みに筑波山登ることになった」 「あら、じゃあお夕飯は早めに支度しないとね」 「ああ、頼む。コイツも連れてく」 「・・・えッ!?」 思わず声が出た。 「なんだ?拝んだらすぐ帰って来るぞ。その後うちでのんびりするんだから良いだろ」 「だって、一緒にカウントダウンとか・・・」 「里美も行こうや。俺、山登りってしたことない。初日の出は友達と大学時代海見に行ったことはあるけど、山から見たこと無いねん。めっちゃご利益ありそう!」 「お父さんたら、里美、子供の頃連れて行って風邪ひいてお正月寝込んだことあるでしょ?」 「そうなん?じゃ、里美はやめとこか・・・」 しゅん、とするしー君。 「里美は私と、あったかいお雑煮でも作ってお父さんたちのこと待ってれば良いじゃない。ね?」 「・・・うん・・・」 「来年も一緒やからさ。な?」 「何を言っている。来年も行くんだぞ」 「「えッ」」 私の不満の声と、しー君の歓喜の声が重なった。 「山開きしたら、他の山にも連れてく。言っておくが、筑波山なんて丘みたいなもんだからな。年明けたら市場にも行くぞ。その場で捌いてくれる寿司屋があってな、お前みたいには若造にはもったいないが、教えてやる」 「はい!」 「あら、良いお返事」 しー君を見てフフ、と笑う母。 「里美?どした?」 「だって・・・。しー君、私といるときより嬉しそうなんだもん・・・」 「え!?そんなこと!・・・あるん、かな・・・」 「やっぱり!」 「だって、お父さんが連れてってくれる店、全部うまいんやもん!この前釣り行った時もな、お父さんのお友達の山根さんがな、船の上で漁師飯作ってくれたねん!めっちゃうまくて、おかわりしたらめっちゃ喜んでくれたねんけど、お父さんにめっちゃ怒られてん!」 「山根は、昔からちょっと褒めるとすぐ調子に乗るからな」 フン、という顔で反対側を見るお父さん。昔から、照れているときは絶対に誰とも目を合わせない癖があった。 大切な人を、なぜか自分の父親にとられてしまったようで不満を抱える私と、ずっとクスクス笑っている母。なんでも嬉しそうに話して、なんでもおいしそうに食べるしー君。ずっとムスッとしている父は、普段は呑まないとっておきのお酒と切子グラス2つ、棚の奥から出してきた。 そして大晦日の夜、元気いっぱいにしー君はお父さんと、お父さんの仲間たちと一緒に家を出て行った。 お正月。食器を洗い終えて和室を見ると、コタツでしー君とお父さんが居眠りしている姿があった。そしてこの光景は、それから毎年のように見ることになる。 2年後のクリスマスイブ。 去年とは別の5つ星のレストランで食事中、しー君が真剣な顔をしていた。
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