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「お父さんとお母さんのクリスマスプレゼント、明日2人で渡しに行こうね」
「うん」
「北海道のおばさんには無事届きそう?」
「うん、いつものコーヒー豆のセットと、里美と選んだ電子圧力鍋」
「喜んでくれるといいね」
「うん」
「・・・どうしたの?」
なんだか、今日はいつもより口数が少ない気がした。仕事で疲れてるのはいつものことだけど、それでも一緒にいるときはいつも笑顔でいてくれるのに。なにか、あったのかな・・・。
「しー君?」
「・・・明日、お父さんとお母さんにも正式に言おう思てんねんけど」
「うん?」
「結婚してください」
「・・・」
「・・・あ、俺と」
「・・・あ、それは、分かる」
「・・・あ、ごめん、コレ、順番・・・」
しー君がポケットから赤い箱を出して開けてくれた。ドラマや映画で憧れていたシーンだった。
「・・・」
「・・・あの、返事、は・・・」
「・・・あ、そっか、ごめん・・・」
「ごめん!?」
「あ、違うの、そうじゃなくて、あの・・・」
キラキラ光る大粒の石が夢みたいなのに、かえってその眩しさが現実感を帯びてきた。
「なんだろ、なんか、ドラマや映画で観たことあるシーンだなって思って。しー君と、結婚・・・なんだろ、想像したり、夢見たり、しすぎちゃったのかな・・・あまりにも、普通って言うか、あ、違くて、普通って言うか、あ、2回言っちゃった。あの・・・なんか・・・」
「・・・うん?」
しー君が緊張した面持ちで、でも私の言葉一つ一つを受け止めるように、見てくれる。
「物語の、一番最後のページを、見た気分かも」
「・・・え?」
「ううん、これも違うな、あの、嬉しいんだよ?嬉しいんだけど・・・想像通りって言うか・・・あ、これも違うな、でも、お婆ちゃんが」
「お婆ちゃん?」
「・・・今の、私のこと見たら、きっと喜んでくれるだろうなって」
「・・・うん」
「どうしよう、さっきから、答えになってない。あの、えっと・・・私・・・」
「・・・うん」
「・・・翡翠、里美になるために、生まれてきたんだなって思った」
言い終える前に、涙が溢れた。あっという間に指輪もしー君も涙で見えなくなって、ハンカチに手を伸ばそうとすると、そっと左手の薬指に、しー君からの愛がリングになって、元ある場所に戻ったようにおさまった。
次の日。しー君と両親へのクリスマスプレゼントを届けに実家に帰り、結婚することを告げるとお母さんが飛び跳ねて喜んでくれた。そして、力いっぱい抱きついてきた。しー君に。
「ちょっと、お母さん!私の旦那様ですからね!」
「いいじゃない!私の息子なんだから!嬉しいー!」
「ちょっと、もう!・・・お父さん、お母さんに・・・、お父さん?」
お父さんが、いつの間にか、しー君に向かって手を付いて頭を下げていた。
「・・・大事な娘です。もう充分幸せにしてもらってることは知っています。どうかどうか、末永くよろしくお願いします」
お父さんの言葉に、しー君も手をついて頭を下げた。
「もちろんです。僕の一生をかけて、里美さんを守ります」
なぜか、私は昨日からずっとお婆ちゃんのことや、自分の小さいときの両親のことを思い出していた。私は愛されて育った。友達にも恵まれた。いろんな人の愛情をたくさん受けて、今日まで生きてきた。それは全部全部、翡翠雫稀という生涯の大切な人へ愛を渡すためだったんだ、と思った。
もともと出張が多いし、いずれは転勤になることもある。そんなときに、私や両親を安心させたいから、と、しー君は言ってくれた。いずれ結婚するつもりで交際を申し込んだのだから、と。
なぜかお母さんが張り切っていて。自分は時代の流れで互助会に入り、式場もプランもドレスまで親戚のおばさん方に決められてしまったそうだ。豪華なものだったそうだけど、心残りがあったので私には同じ思いをさせたくない、と言われた。
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