Treasure Chest

43/50
前へ
/50ページ
次へ
それなのに。 「里美は肩が出たものよりも、チュールで覆った方が似合うわよね。髪はアップも良いけど、編みこんで降ろすのも可愛いと思うわ!」 「ちゅーる?猫か?」 「お父さんは黙ってて!」 さっそく言っていることとやっていることが違う母。不機嫌そうに新聞を広げる父。 「里美は色白だから、カラードレスは何色でも合うわよ。でも、あんまり色が薄いと撮影したときライトで飛んじゃうから、ハッキリとした色が良いわよね」 「もう、お母さん、少しは私に決めさせてよ・・・」 「そうだ!式場!どこがいい?ホテル?結婚式場?思い切って海外なんてどうかしら?ねえ、しー君?」 「俺は、里美の希望全部叶えてやりたいです」 「あら優しい!でも、いいの?」 「会社の先輩に言われたんです。夫婦って、どんなに男が頑張っても、絶対女性の方が苦労するようになっているって。やから、せめて結婚式はお嫁さんの夢を全部叶えられる日やないとあかん、て。女性が生涯で一番キレイな日やからって」 「・・・ヤダ、なんか泣けてきちゃう・・・」 「え、なんで!?もう、泣かんでぇ、鈴ちゃん・・・」 母の背中を摩るしー君。 「鈴ちゃん!?」 「うん、今までお母さん、呼んでたのに、急に鈴ちゃんて呼んでー言うねん」 「だって、お父さんには母さんって呼ばれるし、もう両親は亡くなってるし、ご近所さんには牧瀬さんだし、お父さんの会社やお友達には奥さんって言われるし・・・誰も私のこと名前で呼んでくれないんだもん・・・」 「だもん、って・・・」 「しー君、おばさんのこと百合ちゃんって呼んでるんでしょ?ズルい!私も鈴ちゃんて呼んで欲しいの!」 「・・・って言うからさ・・・」 「あ、そう・・・」 「里美、なんでも好きなん言いや?会社には、早めに報告すればええ言われてるし」 「私・・・は」 「うん?」 「・・・ハワイ、行きたい」 「ハワイ?」 「うん。お婆ちゃんとお爺ちゃんが昔、新婚旅行で行ったんだって。海がすごくキレイで、一日中見ていられたって。ありきたりかもしれないけど、ハワイで結婚式あげたい」 「・・・確かに、いつかみんなで行きたいって行ってたな。・・・叶えてやるか」 それまで黙っていた父が口を開いた。 「お父さんたら。しー君の都合も考えないと」 「俺は大丈夫です。両親もいないし、伯母には知らせますけど、無理なら後で写真送りますし。友達は今忙しい時期なんで」 「じゃあ、家族だけで、のんびり誰にも気兼ねなく、良いじゃない」 「私も、あんまり派手なの好きじゃないし、お父さんたちと、しー君とゆっくり過ごしたいな」 「決まり!ね、楽しみ!ハワイなんて、ホラ、お父さんと里美が産まれる前に行ったっきりじゃない!」 「・・・アロハシャツ買わんとな」 私としー君は、顔を見合わせて微笑んだ。 そして、数か月後。 私はしー君と、両親と4人で、ハワイへと飛んだ。 私よりテンション高い母と、異様にサングラスとアロハシャツが似合う父に爆笑して、パイナップルのジューシーさに感動して、ガーリックシュリンプの美味しさに驚いて、南国の太陽よりも眩しいしー君の笑顔に、また恋に落ちた。 「里美が飲んでるのなに?」 「ピンクドリンク。ハワイ来たら飲んでみたかったの」 「えー、一口飲みたい」 「どうぞ」 「・・・うま、苺?」 「ね、甘くて美味しいよね」 お揃いのサングラスをかけたしー君の笑顔を見て、もう何万回思ったか分からない。幸せだなぁ。
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!

115人が本棚に入れています
本棚に追加