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それなのに。
「里美は肩が出たものよりも、チュールで覆った方が似合うわよね。髪はアップも良いけど、編みこんで降ろすのも可愛いと思うわ!」
「ちゅーる?猫か?」
「お父さんは黙ってて!」
さっそく言っていることとやっていることが違う母。不機嫌そうに新聞を広げる父。
「里美は色白だから、カラードレスは何色でも合うわよ。でも、あんまり色が薄いと撮影したときライトで飛んじゃうから、ハッキリとした色が良いわよね」
「もう、お母さん、少しは私に決めさせてよ・・・」
「そうだ!式場!どこがいい?ホテル?結婚式場?思い切って海外なんてどうかしら?ねえ、しー君?」
「俺は、里美の希望全部叶えてやりたいです」
「あら優しい!でも、いいの?」
「会社の先輩に言われたんです。夫婦って、どんなに男が頑張っても、絶対女性の方が苦労するようになっているって。やから、せめて結婚式はお嫁さんの夢を全部叶えられる日やないとあかん、て。女性が生涯で一番キレイな日やからって」
「・・・ヤダ、なんか泣けてきちゃう・・・」
「え、なんで!?もう、泣かんでぇ、鈴ちゃん・・・」
母の背中を摩るしー君。
「鈴ちゃん!?」
「うん、今までお母さん、呼んでたのに、急に鈴ちゃんて呼んでー言うねん」
「だって、お父さんには母さんって呼ばれるし、もう両親は亡くなってるし、ご近所さんには牧瀬さんだし、お父さんの会社やお友達には奥さんって言われるし・・・誰も私のこと名前で呼んでくれないんだもん・・・」
「だもん、って・・・」
「しー君、おばさんのこと百合ちゃんって呼んでるんでしょ?ズルい!私も鈴ちゃんて呼んで欲しいの!」
「・・・って言うからさ・・・」
「あ、そう・・・」
「里美、なんでも好きなん言いや?会社には、早めに報告すればええ言われてるし」
「私・・・は」
「うん?」
「・・・ハワイ、行きたい」
「ハワイ?」
「うん。お婆ちゃんとお爺ちゃんが昔、新婚旅行で行ったんだって。海がすごくキレイで、一日中見ていられたって。ありきたりかもしれないけど、ハワイで結婚式あげたい」
「・・・確かに、いつかみんなで行きたいって行ってたな。・・・叶えてやるか」
それまで黙っていた父が口を開いた。
「お父さんたら。しー君の都合も考えないと」
「俺は大丈夫です。両親もいないし、伯母には知らせますけど、無理なら後で写真送りますし。友達は今忙しい時期なんで」
「じゃあ、家族だけで、のんびり誰にも気兼ねなく、良いじゃない」
「私も、あんまり派手なの好きじゃないし、お父さんたちと、しー君とゆっくり過ごしたいな」
「決まり!ね、楽しみ!ハワイなんて、ホラ、お父さんと里美が産まれる前に行ったっきりじゃない!」
「・・・アロハシャツ買わんとな」
私としー君は、顔を見合わせて微笑んだ。
そして、数か月後。
私はしー君と、両親と4人で、ハワイへと飛んだ。
私よりテンション高い母と、異様にサングラスとアロハシャツが似合う父に爆笑して、パイナップルのジューシーさに感動して、ガーリックシュリンプの美味しさに驚いて、南国の太陽よりも眩しいしー君の笑顔に、また恋に落ちた。
「里美が飲んでるのなに?」
「ピンクドリンク。ハワイ来たら飲んでみたかったの」
「えー、一口飲みたい」
「どうぞ」
「・・・うま、苺?」
「ね、甘くて美味しいよね」
お揃いのサングラスをかけたしー君の笑顔を見て、もう何万回思ったか分からない。幸せだなぁ。
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