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「父さんと鈴ちゃんは?」
「2人でお買い物デートしてる。お父さん、ゴルフウェア欲しいんだって」
「へえ、ええなあ。俺らもこれ飲んだらどっか見に行く?」
「うん・・・」
「どした?」
「だって、ゴルフウェアなんて買ったら、絶対お父さん、しー君のことゴルフも誘うようになるもん・・・」
「えー楽しみ!俺、上司に言われてん!お前も商社マンなら接待でゴルフ出来るようになっとらなあかんて」
「釣りでしょ、山登りでしょ、将棋でしょ、キャンプでしょ、それにゴルフまで追加したらしー君、私よりお父さんといる時間の方が多い!」
「だって父さん、俺の知らんことたくさん教えてくれるし、一緒にいて楽しいねんもん・・・」
「子供の頃は、里美、里美ってあんなに・・・」
「ん?」
「なんでもない・・・」
「あ、なんや里美、俺に父さんのこととられるー思た!?え、めっちゃ可愛えやん!里美、俺に焼きもち妬いとるー!」
「もう!そんなんじゃないもん!」
「里美」
「はい」
「里美のこと見てると、里美が、父さんと鈴ちゃんにめーっちゃ愛されてるって分かるよ。どの親だって、自分の子供が一番可愛いに決まっとるやろ」
「そん・・・うん」
「明日、式楽しみやな?」
「・・・うん」
「あと、お土産も買わんとな。3歳の女の子なんて何がええと思う?」
「3歳?」
「岸さんのとこ。あんな、めっちゃ可愛くないねん。俺のこと見るたびキックかパンチしてくんねん。絶対父親似やんな?」
「えー、私だったらせっかくハワイに来たし、キレイな色の貝殻とか」
「秒で割られるわ」
しー君は海と太陽が似合う。目が眩むほどの眩しい太陽が海を照らして翡翠色に輝く。これから続くしー君の人生が、こんな風に深く、光り輝くものであるように、願わずにはいられなかった。
結婚式の日が、女性が一番人生で輝く日なんて嘘だと思った。
衣装合わせで何度も見たはずなのに、太陽の下のタキシード姿のしー君は、私がこの世で見たものすべての中で、一番光輝いて見えた。
「・・・里美、めっちゃキレイやで」
「・・・しー君の方が」
「へ!?俺!?」
顔をくしゃっとさせて笑う大好きな人。この人のそばにいられるなら、私はもう、なにもいらないと思った。
何度も2人で予習した誓いの言葉。波の音に消されないように。ううん、ちゃんと、溶け合うように、「I will」と誓った。指輪を交換した瞬間、海辺から少し離れたところだったのに、近くにいた人たちから歓声の声が起こって、今日だけは絶対に泣かないと決めていたのに、こらえきれずに、嬉し涙が溢れてしまった。両親の方を見ると、母よりも父の方が泣いていて、普段怖い顔をしている姿とのギャップに、また泣けた。
「しー君」
「ん?」
ベッドの上。しー君の腕の中で声をかけた。もう寝ちゃったかと思ったのに、まだ起きてた。
「・・・今日ね、すっごく幸せな一日だった」
「うん、俺も」
「これからも、一緒に楽しく生きていくの」
「せやな」
「そのためにはね、2人で力を合わせるのはそうなんだけど、2人だけじゃダメだと思うの」
「・・・うん?」
「いろんな人に助けられて、助けて、支え合って生きていきたい。理想論かもしれないけど、だって今、こんなに、こんなに私、幸せで、一人じゃ受け止めきれない。しー君にもらった幸せを、私、今度はいろんな人と分かち合いたい。いろんな人を笑顔にしたい」
「・・・すごいな、里美は」
「しー君のおかげだよ」
「・・・ん?」
「私、自分の生き方で、しー君にもらったものを表現したい。私がこんなに幸せで笑顔でいられるのは、全部、しー君のおかげだから。ありがとう、だけじゃ全然言い表せなくて、じゃあ、どうやったら伝わるかなって思ったら、この考えだったの」
「・・・」
しー君の大きな手が私の髪を撫でる。
「しー君が大切なものを、私も大切にしたい。しー君の見えている世界が、しー君に優しいものであって欲しい。しー君を幸せにするものが、私以外にも、いっぱい、いっぱい、あって欲しい。私、しー君に、誰よりも笑っていて欲しい。幸せでいて欲しい。あなたが幸せでいられる理由を、増やし続ける。それが、あなたの奥さんになった私の使命で、生きる理由だよ」
「・・・ほんま、泣き虫やな」
「・・・大好き」
涙でズルズルになった私を痛いくらいギュッと抱きしめてくれた。
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