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一週間後。
すっかり暑くなって、半袖一枚で過ごせるようになった。ワンピースが一番楽。結婚して引越しをしたので少し遠くなってしまったけれど、それでも生活圏内と言えるこのカフェに、久しぶりにバスに乗ってやってきた。
「いらっしゃいませ。・・・あら、里美さん!今日は1人?・・・あ、2人ね」
「はい、おかげさまで、順調です」
吉原さんという、しー君がバイトしていた頃から働いているベテランのパートさんが笑顔で出迎えてくれた。しー君が本当にお世話になった大好きな人と言っていた。いつも笑顔で優しくて、私も大好き。
「デカフェね。あと、新作のマフィンがあるの。スイ君・・・あ、旦那さんに持って行ってあげて。奢っちゃう!」
「わあ、ありがとうございます!」
「いいのいいの。こちらこそ、いつもご贔屓に、ありがとうね」
「・・・吉原さんに、聞きたいことがあるんですけど、良いですか?」
「え?私に分かること?」
「はい。し・・・夫が、アルバイト時代、お世話になった先輩って・・・」
「先輩?青君のことかな」
「青、君?」
「きっとそう。はっしー君は年上だけど、スイ君の方が先輩だったし、うん、青野海惺君のことだと思う。どうしたの?」
「その人って、今・・・」
「この前来てくれたわよ」
「えッ!!!???・・・ぁ」
自分でも驚くくらいの大きな声が出た。ハッと口元を押えながら、周りのお客様に頭を下げた。
「アハハ、大きな声。就職と同時に大阪に引っ越しちゃったんだけど、東京に転勤になったって、挨拶に来てくれたの。お子さんも男の子で可愛くて。奥さんも気さくで良い人よ」
「・・・あの、今度、いつ来ますか?」
「それは、分からないけど・・・」
「ですよね・・・」
胸が高鳴る。〝青野海惺〟さん。名前は分かった。でも、ここで待ち伏せするのは現実的じゃないし、伝言を頼む・・・のもなんか。まずは、しー君に相談してみよう。
「あ」
「え?」
「大きなアウトレットモールできたでしょう。今度の日曜、家族でそこに行くって行ってたわ」
「・・・本当ですか?アウトレット、知ってます!」
「子供服が充実してて、ファミリー層向けだって。新生児用の服もきっといっぱいあると思うわ」
「・・・ありがとうございます!!!」
興奮しすぎて、肝心の買ったものを忘れそうになり、吉原さんに笑われてしまった。
どうしよう、どうしよう。しー君の、運命がまた動き出す予感がする。
「ただいま!」
元気よく、家の玄関を開けた。
「おーお帰り。散歩、どやった?」
「うん、暑かったけど、バス座れたし、吉原さんにも会えたよ」
「おお!元気やった?俺も久しぶりに会いたいなあ。あ、もうすぐパスタできるでー」
「うん、良い匂い!」
「ちゃんと海來の分まで食べるんやでー」
「・・・ねえ、しー君」
「ん?」
「今度の日曜、一緒に行きたい場所があるの」
「ええよ、どこ?」
私は、あなたに出逢えて幸せを知った。毎日が彩り豊かに輝き始めた。誰かの顔色ばかりうかがっていた人生が、楽しいと思えるようになった。人生は、自分の足で選ぶことができることを知った。自分を愛することが、誰かを支えることになることを知った。
今度は私があなたに示したい。あなたの存在が、あなたが私にしてくれたことが、あなたに降り注ぐ光になることを。海のような深い愛になることを。
それがあなたが生きていた道なんだよ、ということを、私は自分の生き方で返したい。あなたは、もっともっと幸せになるんだよ。
そして、その姿をずっとずっと見守る存在が、私だけでなく、海來、両親、そして、あなたの大切な人々で溢れますように。
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